●『〜ハッピーホワイトクリスマス〜』
人気のない静かな公園に、突如激しい打撃音が響いた。 「全く、いつ見てもお前の一部は一向に成長する気配がないな。貧乳め」 という、いつも通りの滅月の『貧乳』発言に逆上した夜白が、いつもの通りに回し蹴りをお見舞いしたのだった。 滅月がからかっているだけだというのは十分に理解しているのだが、それは、それだけは禁句なのだ。 「クリスマスイブにまでひんぬー発言はないでしょー……」 自分で言っていて滅入ってきたのか、少女の言葉は消え入るように小さくなっていく。 (「ってか、何やってるんだろうもう……」) 照れ隠しというのか、いつもあまり素直になれていない気がするから頑張ろうとしていたのだが。 結局は同じようになってしまった。 (「今夜くらいは素直にしようと思ってたのに……」) 気が沈んでいるところに、滅月が慰めているつもりか頭をぽんぽん撫でてくるのがまた腹立たしい。 「あ、雪」 とにかく何かヒトコト言ってやろうと顔を上げた瞬間、街灯だけの薄暗い空から白い花びらが降ってくるのが目に入る。 「ホワイトクリスマスだね……」 「ああ、ホワイトクリスマスだな……」 茫然と呟く夜白。 二人が黙ったことで静寂が戻った公園に、雪がただ静かに降り注ぐ。 「――しょ、しょうがないわね。雪に免じて許してあげるわよ」 「雪に免じてか、そりゃ雪に感謝しなきゃな」 一気に毒気が抜かれてしまった。 なんだか怒るのも沈むのも馬鹿らしくなった夜白に、おどけた口調で滅月が合わせ。 「ちょっ!?」 ぎゅっ、と夜白の体を抱きしめてくる。 なんというか、とても『いい雰囲気』と呼べるようなものではないのだけれど。 (「ま、これもあたし達らしいのかしら」) (「これも俺達らしい、そう思うようにしとこう」) 「「ん……?」」 目が合った相手は、どうやら自分と同じようなことを考えていたらしい。 そう気付いた二人は、なんだかおかしくなって小さく吹き出してしまう。 「あ――」 改めて抱きしめなおす滅月に、夜白の唇から吐息が漏れる。 それを塞ぐように、滅月の唇が近づきそっと重ねてくる。 真冬の寒さをはねのけるような滅月のぬくもりを感じつつ、夜白はタイミングよく降ってきた雪とクリスマスに感謝するのだった。
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