●『とくべつなひの、いつものふたり。』
クリスマスという特別な日に彩られた町並みを二人の男女が歩いていた。 去年のバレンタインに恋人同士になった草楼とさとるである。 二人にとってようやく迎えたクリスマス。 二人の間を結ぶ手は、しっかりと握られていた。
ふと、ぶらぶらと歩いているが、この先の予定がまったく決まっていないことに気づいたさとるは立ち止まり、草楼を見た。 「どうした?」 立ち止まったさとるを見て、草楼は首を傾げて彼女を見た。 彼女はというと、草楼の顔を見て色々なことを頭に浮かべていた。 今日はクリスマスということ。特別な日だということ。今まで数える程しかしていないキスなど、恋人らしいことをして過ごしたいということ。でも相手はいったいどう思っているのだろうかということ。 一人で真っ赤になったりニヤニヤしたり不安そうにしたりでもやっぱり笑顔になったり。 一通りの百面相が終わったあと、彼女はポツリと尋ねた。 「何して過ごしますか?」 その言葉をひねり出すのにいったいどれだけ考えていたんだと、内心苦笑しつつも、表情はそのまま、顎をさすりながら考え、草楼はポツリと。 「エロく」 その言葉に、さとるは頬を真っ赤にさせ、口をギュッと閉じた。 その可愛らしさに心臓がドキリとし、慌てだした己の心を顔には出さず、冷静な表情のまま、さとるの背後に回る。 そしてさとるの肩に手を回そうと……動かして一度ピタリと止まる。あまりにも緊張しすぎて、自分の意思に反して身体が条件反射的に止まってしまったのだ。 しかしすぐに気を取り直してそのままさとるの肩に手を回し、背後から抱き寄せる。 「いや、ジョーク」 自分の心臓の鼓動が彼女の背中から伝わってしまうのではないかとハラハラしつつも、その表情は崩さない。至ってクールに、言葉も慌てた節は見せず。 ジョークと言われ、しゅんとした表情になってしまったさとるは、だがこの特別な日を諦めきれずにいた。 「べ、別にジョークじゃなくてもいいんですよ?」 表情も声色も感情をそのまま表したように、恥ずかしげに。 その奇襲ともいえるさとるからの誘いに草楼の心がグッとゆれ動く。だがやはり表情は至ってそのままを保つ。 「まあ待てハニー」 草楼は静かにさとるの言葉を止めようとした。しかし、その時のさとるの攻勢は、どうやら止まることを知らなかったらしい。 「わ、私じゃダメなんですか?」 「いや、そういうわけでは……」 止まぬ攻撃、受け流す男。 二人にとって特別なクリスマスの夜は、まだまだ続いていく……。
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