●『聖夜の終わりに』
まるでお祭りのような街の雰囲気は夜の訪れとともに静謐さが増し、聖夜に相応しい雰囲気に包まれていた。 クリスマスももう終わり。楽しい時はあっという間に過ぎてしまう。それは、この一年にしても同じだった。 煉司と雪が付き合いだしてもう一年が経つ。振り返ればこの一年も、本当に瞬く間に過ぎてしまった。 たくさんのデートをしたし、キスもした。煉司は感慨深く、大切な思い出のひとつひとつを思い出していた。出会ってから今まで、与え与えられた幸せな時間。幸せ過ぎて少し怖いとすら思ってしまう。 華やいだ街を眺める雪にそっと視線を移し、穏やかな気持ちで、思う。 (「本当に雪さんには感謝しなくちゃね」) 一方の雪も、色とりどりの灯りで飾られた街を眺めながら、煉司と同じようにこの一年に思いを馳せていた。まるでこの風景のように、色褪せない思い出たち。そして今、この瞬間。 (「この幸せがずっと続けば良いのに」) いや。続くよう努力しなくちゃ。 雪がそんな密かな決意を胸に秘めた時、2人は一際輝く大きなクリスマスツリーを見つけた。 「きれい……」 「ね、記念に写真を撮らない?」 感嘆の声を漏らす雪に煉司は折角だからと声を掛けた。 「お、これは綺麗に撮れたかも!」 カメラに写された画像を見つめながら煉司が声を上げる。雪さんも見てみてよと促され、彼女は寄り添うようにカメラを覗き込んだ。 「あ、ほんとだ。綺麗に写ったね」 顔を上げ、煉司に言い掛けたその時、不意打ちのキスが彼女の口を塞いだ。 「いつもありがとう。大好きだよ」 目を丸くしている雪に煉司は愛情と感謝の気持ちを込め、優しく囁いた。 少しの照れと嬉しさに丸くした瞳を少し潤ませた雪は、口元を手で押さえながら大きく何度も頷く。今は気持ちが次々と溢れてきて、言葉にならない。 「……大好き、ありがとう」 昂ぶりが少し治まり、ようやくそれだけを呟くと雪は煉司に抱き付いた。 写真に写った2人は、暖かそうなマフラーに繋がれて幸せそうに微笑んでいる。矢のように過ぎていく幸せな時間を切り取った、閉じ込められた一瞬の中で永遠に。 それは、ずっと幸せであれるようにと決意した雪の気持ちが映されているかのように見えた。
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