ヘイゼル・ローレンベルグ & 舞島・巫斗

●『互いのぬくもりを』

 コテージの室内より、窓から外に目をやると、夜空から雪が降っているのが見えた。
 しかし、部屋の中は暖房が効いており、更にベッドには布団。それにもぐりこんでいれば、裸でも暖かい。
 そう、今のヘイゼルがそうしているように。
「流石に、恥ずかしいな……」
 ベッドを前に、上半身裸になった少年、巫斗が躊躇するように顔を背け、立っていた。
 聖なるこの日。二人は、楽しい時間を過ごした。
 そして、一日の終わり……巫斗が言い出し、一夜を過ごすことに。
 恋人だから、一緒に過ごす。別に、問題は無い。
 けれど、いざその時が訪れると……やっぱり、恥ずかしい。
「別に……一緒に、寝るだけだよ」
 少しからかう口調で、ヘイゼルは巫斗に言葉をかけた……つもりだった。
 ヘイゼルは聞いた。自分の口調が、少しだけではあるが、恥じらったそれになっている事を。
「そうは言ってもな……」
 巫斗はまだ躊躇っていた。いつものクールな様子とは違う一面。それはヘイゼルにとって、ちょっと嬉しい一面。
「じゃあ、やめる?」
 不器用な彼を弄るのは、ヘイゼルだけの楽しみ。恋する人の知られざる一面を見る、恋人だけの楽しみ。
「えっ?」
「一緒に寝るの、やめる? 僕は別に、いいんだけど」
 嘘をついて、巫斗を挑発してみる。少女の可愛い意地悪に、渋る少年は堕ちた。
「わかったよ……元々、僕が言い出したことだからな」
 巫斗は、残る服を脱ぎだした。その様子を見ていると、ヘイゼルは改めて、自分の状況を実感する……自分もまた、一糸まとわぬ姿であることを。
 そして、更なる恥ずかしさと、別の欲求が沸いてくる。
 もっと、自分を見て欲しい。もっと、自分に触れて、自分に近づいて、自分を愛して欲しい。
「嬉しいよ……巫斗」
「……何か、言ったか?」
「ううん、なんでもない」
 何気ない会話、何気ない日常。普通なら、退屈と思うだろう。
 けど、そんな何気ない日常を過ごせる事は、とても素晴らしい事。恋人と、愛する人と何気ない日常を過ごせるのは、なんて素敵な事か。
 お互い、一緒にいられる時間をもっともっと大切にしたい。だから……。
「じゃあ、入るぞ……ヘイゼル?」
 少女と同じ、生まれたままの姿になった巫斗は、ヘイゼルのベッドへと近づき……その毛布をめくりあげた。
「あっ……」
 途端に、二人とも頬が赤くなる。が、ヘイゼルは微笑み……巫斗へと、両手を伸ばした。
「いいよ……きて、巫斗」
 恋人が、ベッドの中に入ってきた。恥ずかしさとともに、ヘイゼルは……彼を受け入れ、抱きしめた。
 彼のぬくもりが自分に伝わり、熱いくらいに暖かい。おそらく、巫斗もそうだろう。
 彼から触れられるだけで、肌から甘美な感覚が流れ込む。
 互いのぬくもりが、より甘く、大きくなり……それは一つに溶け合った。囁かれる互いの言葉は、二人だけの秘密。
 二人きりの聖なる夜は、まだ始まったばかり……。



イラストレーター名:黒糖MiMi