●『メリー・クリスマス!』
「……皆さん、喜んで、下さるといいのですが……」 不安そうに呟く翼は、純白のサンタ衣装に身を包み、大きな荷物を背負っていた。 「ふむ、まあ邪魔にはなるまいしな」 答える宗吾もまた、サンタ衣装に大きな荷物と言う出で立ちだ。もっともこちらはスタンダードな赤色だが。 「そうだといいです……わっ」 「む。大丈夫か?」 重い荷物によろける翼を、宗吾は片手で支える。もう片方の手には翼と同じく大きな荷物を持っているが、宗吾の姿勢が崩れる事はない。 「……す、すみません、有難う御座います」 慌てて謝り礼を言う翼。恥ずかしさのせいか顔が赤い。そんな彼女に、気にしてないというように「ん」と短く返す宗吾。 今日はクリスマス。翼と宗吾は、2人の所属する結社タケミカヅチの道場へと向かっていた。今年成人を迎える年長組の2人は、道場でクリスマスを祝っているだろう皆にプレゼントを届けるサンタ役だ。 2人は重い荷物を肩に背負い、夜の道を往く。 と。はらりと舞う雪が翼の頬に触れる。空を見上げるとちらちらと雪が降り出していた。 「雪か。これも一つの贈り物というやつだな」 「ホワイトクリスマス……です、ね。綺麗……」 うっとりと夜空を見上げる翼を優しさを宿した眼差しで見ていた宗吾だが、 「足音も消してくれるし、密かに行くには便利だな」とにやりと笑う。 どうやら皆を驚かすつもりらしい。「ちと急ぎ足で行くとしようか」宗吾は不敵な笑みのまま言うと早足で歩き出した。 「あ、はいっ。ま、待っ……」 慌てて追う翼だが、片手に持った重い荷物のせいでバランスを崩してしまう。 「わっ」足を滑らせた翼は宗吾の逞しい腕にしがみついて、「ふぅ」なんとか姿勢を保つ。 「おっと、すまんな」 宗吾たいして悪いと思ってなさそうに言うと、片手で軽く翼の身体を支えた。 「……いえ、こちらこそ……」 俯いた翼の頬に淡く朱色が灯る。しがみつく手に、少し力が篭った。 「……そうそう、忘れてはいかんな」 袋を探り小箱を取り出す。 捉まれた腕に感じるのはほのかな翼の想い。 「翼の分だ。開けてみろ」 普段通りの淡々とした口調。想いに応える気持ちは、箱の中の白い花のブローチが語ってくれていた。 「……わ、有難う……御座います……!」 早速ブローチを胸に付け、「似合います?」と言うように微笑み宗吾を見つめる。 「うむ」相変わらず普段と変わらない宗吾。けれど、付き合いの長い者なら、彼が少し照れている事に気付いただろう。 「……メリークリスマス」 「はい……メリークリスマス」 紡がれたのは聖夜を祝う言葉。「似合うよ」「素敵だ」なんて、百万の甘い言葉よりも普段通りの宗吾の、宗吾らしい言葉が嬉しい。
だから翼は「……さて、行くか」と、徹底していつも通りの宗吾の腕に、もう一度しがみついた。 「はい」 さっきより、もう少しだけ力を込めて。 たとえ雪で滑っても、絶対離れたりはしないように。
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