霧宮・凪乃 & 玖堂・統夜

●『聖なる夜に』

 暗い夜空を、輝く星々と舞い散る小雪が彩る。凪乃は白い息を両手に吹き付け、寒そうに両手をこすった。
 そんな彼女の肩に大きな手が廻され、優しく抱き寄せる。驚きの表情を浮かべながら、凪乃は隣に居る人物を見上げた。
「……少しは、温かいだろう?」
 視線を合わせず、不器用に質問をする統夜。彼らしい発言に、凪乃は軽く微笑んだ。
「はい、ありがとうございます」
 統夜の言う通り、身も心も温かい。そのまま寄り添うように、二人は夜の街道を歩き始めた。今宵はクリスマス。街も人もクリスマスに彩られ、歩き慣れた道も、いつもと違って見える。
「凪乃が作ったケーキ、おいしかった」
「そ、そうですか?」
 顔を赤らめる凪乃。たわいのない会話も、二人にとっては楽しい時間である。
 公園に差し掛かった時、大きなツリーが凪乃の目に止まった。
「統夜さん、ちょっと見て行きませんか?」
「ああ」
 静かな夜の公園で、幻想的な光を放つクリスマスツリー。周りには、誰も居ない。二人の独占状態である。
 ツリーの近くまで歩き、二人は足を止めてツリーを見上げた。
「統夜さん、綺麗ですね♪」
 珍しく、少々羽目を外した感じで話す凪乃。
「そうだな……」
 と、ツリーを見上げたまま統夜が相槌を打つ。
 ふと、彼は熱い視線に気付いた。ゆっくりと、視線を送る人物に顔を向ける。
 言うまでもなく、視線の主は凪乃。緑色の大きな瞳が統夜を見詰める。その瞳に吸い込まれるように、統夜は凪乃から視線を外せない。既に、お互いの瞳には、お互い以外は映っていないだろう。
 統夜は右手で凪乃の顎を優しく支え、左腕で彼女を抱き寄せた。凪乃は右手を統夜の背に廻すと、左手を彼の右手に添える。
 どちらからともなく、二人の距離が近付く。二人の影が重なる瞬間、ツリーの電飾がフッと消えた。
 月明かりの下、重なる二つの影。溶け合った二人の心は、二度と離れる事は無いだろう。



イラストレーター名:bowalia