●『聖夜の罠 −少女の頑張りと少年の葛藤−』
――夜、誰もいないはずの十六夜心霊相談事務所の中。その暗闇の中で動く人影が1つ。 「例の物も準備OK、ミニスカサンタのコスチュームも装着完了……」 なにやらもぞもぞと動く人影は、巨大な何かを引きずっているようだった。 「ちゃんと呼び出したし、準備に抜かりはないね♪ あとは、この中で久遠が来るのを待つだけ……」 ゴソゴソ、という音と共にその人影は姿を消し、残されたのは巨大な何か。 その巨大な何かが、時折動いているのは、気のせいではない……。
「んー、リーベちゃん、待たせてもうたかなぁ?」 十六夜心霊相談事務所へとリーベンデイツに呼び出された久遠。 何となく用件は分かっている。今日はクリスマスなのだ。 大切な人と一緒に同じ時間を共有し、思い出を深める日。 大切な人、という単語を思い浮かべて、少し赤くなってしまう久遠。 照れを押し隠すように、十六夜心霊相談事務所の扉を開いた。 「リーベちゃん、お待たせー……?」 呼び出された応接間へと向かった久遠だったが、そこに待ち人の姿はない。 ……唯一つ、巨大な靴下が置いてある事を除いては。 「? 何やろ、コレ……」 その怪しげな靴下の中を覗き込もうとする久遠。――その瞬間。 「じゃじゃーん♪」 「うわ! リーベちゃん!?」 靴下の中から飛び出てきたのはリーベンデイツ。 その身にまとっているのは、ミニスカサンタのコスチュームだ。 「奇襲成功だね♪ 久遠、今年のクリスマスプレゼントは私だよ♪」 飛び出たリーデンベイツは、驚いて尻餅をついた久遠の元へとじわりじわりとにじり寄る。 「去年そんな話しとったけど……本気でやるとは思わんかった……」 久遠の表情は驚き半分と、サプライズを企んでいたのも可愛いなぁという嬉しさ半分のようだ。 だが、じわりじわりと近づいてくるリーデンベイツの服装を見て、その表情は一気に真っ赤になった。 「ちょ、リーベちゃん近っ……」 ミニスカだけあって鎖骨や太ももが大胆に見えているリーデンベイツ。 笑顔も相まって、破壊的な可愛らしさだった。 照れ屋な久遠は仰け反りながらも視線をはずせない。 待てボクは健全なお付き合いを……! と必死に念じながら、理性を保っている様子。 「あ、あれ? ……喜んでくれてもらえたかな?」 何も言葉を返してくれない久遠の様子に不安になったのだろう。 リーデンベイツが久遠にたずねる。 その手が少しだけ震えていたように久遠には感じられた。 「メリークリスマス、リーベちゃん……ありがたく貰うな」 ――こんな寒い冬の夜に、ずっと待っていてくれていたのだ。 不安と寒さに震えながら、久遠が喜んでくれると信じて。 だからこそ、少し恥ずかしいけれど精一杯の勇気をこめて、久遠はリーデンベイツを抱きしめた。 「うん、メリークリスマス♪」
――クリスマスには誰もが魔法を使えるようになる。 ほんの小さな勇気で唱える、心を伝える魔法だ。
| |