●『聖なる教示』
クリスマスイブ、聖なる夜――。 暗く、静謐な空気に覆われた教会にふたつの人影があった。ステンドグラス越しに月明かりを浴びた像が、神秘的な雰囲気を醸し出す。 その前で、メルティとエロシオンは見つめ合っていた。他に誰の姿も無く、どちらも沈黙したままの空間で、2人はどちらからともなく互いの方へと歩み寄る。 静かな足音だけが響き、やがて互いに互いの吐息が聞こえる。指先を伸ばせば、今にも触れられそうな距離……そこまで近付いたとき、エロシオンは艶やかに微笑んだ。 「――さあ、お姉さんと愉しみましょう?」 赤い唇が小さく笑んで、吐息と共に囁きかける。 伸ばされた指先がメルティのドレスに触れても、メルティは身じろぎひとつする事ができなかった。否――しなかった。 微かな衣擦れの音と共に、メルティのドレスが足元に落ちる。エロシオンの指先がメルティの体を流れるように動いて、残るわずかな布すらも彼女の体から取り除かれた。 それと共に、エロシオンは自らの修道服すらも脱ぎ捨てた。互いの豊かな裸体が、僅かな月明かりに照らし出される。 ぼんやりと、まるで光るかのように浮かび上がる相手の姿を見ても、メルティは、どこかぼうっとした表情をするだけ。 「……お願いします」 その瞳に熱がこもるのを、頬が上気するのを、見る事ができるのはエロシオンだけ。うっとりと陶酔するかのような表情で見つめるメルティの様子に、エロシオンはくすりと、ただただ妖艶に満足げな笑みを浮かべるだけ。 そっと、指先が這う。 優しげな動きで、これが『教示』だとばかりに――。 熱が伝わるほど抱き合って、瞳が絡み合って離れられなくなるほどの距離で、触れ合う。 そっと唇を重ねれば……崩れ落ちるようにして、すべてが重なり合っていく。 「熱い聖夜を過ごしましょう…ふふ」 離れた唇からこぼれる熱い声。放たれた言葉の最後は笑みにかき消され、再び唇で塞がれる。 「はい……楽しみに、しております……」 触れては離れ、更にもっと濃密に絡み合っていく中、まるで息継ぎをするかのように途切れ途切れに、その合間にメルティは囁いた。
誰もいない、2人だけの教会で――夜は、更けていった。
| |