●『重なり合う2つの影』
何処かからジングルベルが聞こえてくる、クリスマスイヴの夜。 公園の真ん中に飾られた大きなクリスマスツリーは、様々なオーナメントに彩られて輝いている。 その前でヘイゼルは1人、少し寒そうに自分の身体を抱きながら、空を見上げ立っていた。 ライトが浮かび上がらせる、長い髪のヘイゼルのシルエット。吐く息はふわっと白くて、指先が冷たい。 そんな彼女を、背後からそっと誰かが抱きしめた。 「ごめん、待たせちゃったかな」 そう言って、ヘイゼルの顔を覗き込んだのは青葉。彼女の待ち人だ。 「ん……大丈夫、僕も今来たところだから……」 ヘイゼルが答えると、青葉はそれでもごめん、ともう一度謝った。 「寒かったでしょ?」 青葉は、すっとヘイゼルの手を取って繋ぐ。 「イルミネーション、綺麗だね」 「うん、いろんな色……」 言いながら2人は身を寄せ合えば、お互いの体温がお互いを温めている気がして、優しい気持ちになる。 並んでイルミネーションを眺めていると、しばらくして青葉が小さな包みを取り出した。 首を傾げるヘイゼルに、青葉はにこりと微笑む。 「これ、プレゼントだよ」 包みから出てきたのは、星と月をあしらったピンク色のチェーンブレスレットだった。 青葉が選んだであろうそれは、実はメルヘンチックなところもあるヘイゼルにピッタリで、可愛らしい。 青葉はそれを丁寧に、カチリとヘイゼルの腕につけた。 「ん、とても似合ってるよ」 「そう……? 似合ってるって言ってくれて、嬉しいよ」 ヘイゼルの手首につけられたブレスレットは、ツリーのライトを映してキラキラと光り、とても綺麗だ。 小さく笑顔になったヘイゼルの頬を、青葉が撫でる。 少し照れながら、ヘイゼルもプレゼントを渡すために包みを取り出そうとすると、青葉はそれを遮るように彼女を抱き寄せた。 「プレゼントなら、ここにあるよ」 「え?」 そのまま、青葉はヘイゼルをきゅっと抱きしめる。 「僕にとってはヘイゼル、君が最高のプレゼントだよ」 囁いた青葉の顔が、ゆっくりとヘイゼルに寄せられて。 「好きだよ、ヘイゼル」 青葉の声。伝わる、青葉の気持ち。 「僕も好きだよ……青葉」 小さな声で答え、ヘイゼルは頬を赤らめながら目を閉じた。 青葉も目を閉じると、彼女の唇に自分のそれをそっと重ねる。 きらめくイルミネーションの下、2つの影が優しく重なり合った。
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