●『Shall we ダンス? 』
緩やかで綺麗な音楽が流れ、様々なデザインの色とりどりのドレスの花が音楽に合わせて舞い咲き乱れるダンスホール。 (「吸血鬼が軽々しくクリスマスなど祝えるものですか」) 壁際で飲み物を飲みながら、ぼんやり楽しそうな仲間達を眺めているウルリケ。 本来、ウルリケは賑やかなのが好きだ。身に覚えのない疑いを受け、追われる身となり逃亡生活を送るうちに、すっかり警戒心が高くなってしまったのだ。 「おーい! リケ、なにしてんの? 踊らないん?」 一輪の壁の花を見つけたカイトが、いかにもパーティを楽しんでいる様子の笑顔でウルリケに話しかけた。 「ご覧の通り、眺めているだけよ」 素っ気無く答える。 「いやさ、こんなとこに、ちょー綺麗な花があるとおもったらリケでした。折角のクリスマスだし、たまには苦手意識とか、どこかにやっちゃってみるのどうよ! なにごとも経験」 明るく笑いかけたカイトは、自分と踊らないかと手を差し出した。 (「いきなりほめるな、馬鹿!」) 『綺麗な花』と褒められて嬉しくない女はいない。 「苦手、ってわけじゃないけど、えっと……」 ウルリケは頬を赤く染めて、どうしたものかと困惑の表情を浮かべる。 (「この手を取っていいのだろうか。心を許してもいいのだろうか……」) しかし、褒められてダンスに誘われるのは、素直に嬉しい。警戒と嬉しさがウルリケの中で天秤にかかって、困惑の表情になってしまっているのだ。 「リケがおどるのみたら、他のヤツもすぐさまさそうだろうから、一番乗りだ!」 カイトはにっこり笑顔で促す。 そのカイトの安心できる笑顔で気を取り直して、 「では、エスコートお願いします。銀狼の騎士団長さま」 極上の笑顔を浮かべるウルリケは、確かに『ちょー綺麗な花』だ。 (「最初は冷たい感じもあったけど、中身は熱い想いを秘めてるって知ってるからな。めいっぱい笑顔でたのしませてやるぜ!」) 心の中で、ぐっと拳を握り意気込むカイト。 おずおずと手を差し出すウルリケの手をしっかり取って、 「おう! 蝙蝠のお姫さまの意のままに」 ナイトは姫をダンスの輪の中へ連れ出した。
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