●『『僕が』『わたしが』買ってあげたくて 』
年に一度のクリスマスイブ。イルミネーションに彩られた街には、恋人達が仲良く手を繋いで歩く姿が多く見られる。 そんな中、一人歩く牡丹はずっと俯いたままだった。 実はそんな牡丹にも恋人は居る。ついさっきも二人で暮らしている部屋から出て来たばかりだ。ただ問題は近頃恋人――星流の帰りが遅いこと。 けれど、今日は二人でパーティをしようと牡丹は一生懸命準備をしていた。 (「もし、ケーキを買うまでに戻らなかったら……」) 不安の代わりに、白いため息が漏れた。
他の買い物を済ませ、牡丹が向かったのは以前星流がお勧めしていたケーキ屋だ。 どうやら店頭販売も行われているらしく、店の前にはプレートを持ったサンタ姿の店員の姿も見える。 そこで買おうかと思いながら牡丹が店先に近づくと、振り返った店員が笑顔を浮かべた。 「クリスマスケーキはいかがで……っ、牡丹先輩!?」 「星流くん!?」 驚きの声は牡丹と、なんとミニスカのサンタから聞こえてきた。 よくよく見れば、確かにそのサンタ姿の店員は恋人の星流だ。 「その格好、どうしたんですか!?」 牡丹が驚くのも無理はない。しかしながら星流のサンタ姿も確かに似合っている気がするが、それは今の牡丹には関係ない。 何故彼はサンタ姿でこんな事をしているのか、最近帰りが遅かったのはこのせいなのか。 「どうしてこんな……」 心配、混乱、怒り――溢れる様々な感情は、一度流れ出したらもう止まらなかった。 「わたし、ずっとお家で待ってたんですよ!」 悲しげに目を伏せる恋人を見て、それまで黙っていた星流がやっと口を開く。 「ごめんなさい」 最初の言葉は、謝罪。 「僕の手で牡丹先輩が喜ぶものを買ってあげたかったんだ」 続いた言葉は、牡丹への想い。 ――アルバイトをしていたのは、プレゼントを買うため。単に時給が高いから選んだだけなのだが、牡丹に言えなかったのは……この服装が恥ずかしかったから。言いながらもスカートの裾を引っ張ってみせる仕草。 申し訳なさそうにする星流に、牡丹はふるふると首を振った。 「ケーキ、ここに買いに来たんだね?」 言われ、牡丹はゆっくりと笑みを浮かべた。 だってそれは――。 「わたしも星流くんが喜ぶもの買ってあげたかったからですよ」
やがてバイトを終えた星流の手には、購入したクリスマスケーキが。そして隣を歩く牡丹の腕の中には、星流が先程購入してくれたプレゼントの包みが収まっている。牡丹はそれを大切な宝物のように、優しく抱きかかえていた。 「早く帰ってパーティですよぅ」 幸せそうに笑う牡丹に手を引かれ、星流も微笑んだ。 「うん、帰ろう」 笑い合う二人の距離は、何よりも近い。 「メリークリスマス、牡丹先輩」 「メリークリスマス、星流くん」
些細なすれ違いから解けかけた絆は、互いが互いを想う心で一層強く結びついた。 だから二人一緒に過ごすクリスマスイブは、幸福そのもの。
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