大神・末 & 小野寺・さくら

●『受験生は聖夜も頑張るもの(息抜き編)』

「センター試験まであと少し……」
 机の上に広げた教材のプリントから目を上げ、ふと壁にかかった日めくりを見ながらさくらは呟いていた。
 今日は十二月の二十四日。彼女のような年頃にとっては特別な日だが、それよりもセンター試験のことが先に思い浮かぶあたり、勉強に身が入っている証拠だろう。
 たとえ聖夜といえども、間近に入試を控えた彼女にとっては勉強あるのみだ。
 彼女がプリントに目を戻そうとした時、不意にふすまをノックする音が静かな部屋に響く。
「どうぞ」
 プリントから再び目を上げ、ふすまに目を移した彼女の前で、開いたふすまから現れたのは、割烹着姿で手には特製鍋焼きうどんを持った末だった。
 世話焼きな末は、センター試験が近いからと受験勉強中のさくらへ夜食を作りに来たのだ。
「悪ぃ、邪魔したか?」
「いいえ。そんなことはありませんよ」
 申し訳なさそうな表情の末に対し、さくらは柔らかく微笑みながら言う。
 それに安心したように微笑みを返すと、末は鍋焼きうどんを持って部屋へと入ってくる。彼の意図を察し、さくは机上に広げていたプリントを手早く片付けた。
 咄嗟に片付けたにも関わらず、プリントが順番通りかつ角の揃った状態で机の隅に寄せられているあたり、真面目な彼女の性格が伺える。
 彼女のちょっとした気遣いに感謝しながら、末は空いたスペースに特製鍋焼きうどんを置いた。
「っま、色気も何も無いけどメリークリスマスってか?」
 そう言って笑う末につられて、さくらの顔も自然とほころぶ。
 机上の特製鍋焼きうどんは美味しそうに湯気を立てている。
「もし、良かったら温いうちに。それに、放っといたら、のびちまうしな」
「ええ。せっかくですから、いただきます」 
 もう一度、末に向けて笑みながら、さくらは上品な手つきで箸を取り、一筋のうどんを摘み上げ、何度か息を吹きかける。
 ほどよい温さになったうどんを口に運ぶと、丁度良い歯応えと共に身体の芯まで温かさが広がるようだ。
「ごちそうさまでした」
 手を合わせて、丁寧に箸を置くさくらの表情は満足げだ。そして、それを見る末の表情も満足げだった。
「お粗末様でした、っとな。それと、せっかく温まったんだから、それを逃がさないようにしないとな」
 上機嫌で空の器を机からさげた末は、さくらの肩にカーディガンをかける。
「受験生なんだから風邪ひくなよ。ただでさえここ最近は寒い……お、そう言ってるそばからか――」
 何かを言いかけ、末が小窓に向けた目線をさくらが追うと、丁度舞いはじめた粉雪が街の灯りで、淡く光っているのが見えた。
「っま、少しは色気のあるメリークリスマスなったか?」
「はい」
 聖夜の空に舞う粉雪を少しの間見つめた後、今度は末の顔を見つめながら、さくらは満面の笑みで答えた。
 あと少しで、雪ではなく、桜が舞う季節がやって来る。
 それが、さくらにとって笑顔で迎えられるものであらんことを。



イラストレーター名:見月千草