●『募る想いを乗せて』
くしゅん。 隣から聞こえたそれに、遙は心配げな表情を浮かべた。 「弥鶴さん、大丈夫ですか?」 「うん、平気」 弥鶴はそう笑うけど、こんなに寒い冬の夜なのだ。寒くないという方がおかしい。気を遣わせてしまったのだと遙は気付く。 ――夜の街を、一緒に散歩しませんか? クリスマスイブの夜、勇気を出して誘った遙に応えてくれた弥鶴。 でも、彼がそのせいで、風邪でも引いてしまったら一大事だ。 喫茶店にでも入って暖まろうか? それともそれとも……あっ。 どうしよう、と悩み始めた遙はハッと気付いた。 カバンの中に入れたまま、出すタイミングを掴めずにいた――プレゼントの存在に。
――最初のきっかけは、ひょんな事から彼の誕生日に、彼の学ランを脱がすと盛り上がっていた人達に混ざり、それに参加した時だった。 あの時、ころんと自分の手の中に転がり込んできた、第二ボタンを見た時に。 彼を意識してしまったのが……はじまり。
あれから、いろいろな事があった。 次の誕生日には、鈴木城にみんなで出かけた。あの時、彼はレモンスカッシュを買ってくれたっけ。 学園祭の時、忙しい中なのにわざわざ来てくれた。 夏休みに花火を見に行った時は……あの日だけ、恋人のように付き合ってくれて。恥ずかしかったけど……楽しかった。
そんな今までの思い出を振り返り、語り合いながら、2人はクリスマスの街を歩いていた。 でも、どんどん夜風は冷たくなってきて。舞い降り始めた白い雪に、周囲のカップル達が沸き立つ中――弥鶴のくしゃみが、聞こえたのだ。
……今しかないですよね。渡すなら。
意を決して遙はストールを取り出した。この日の為に、ずっと前から準備していた手編みのストールを、遙はそっと弥鶴の首に巻いた。 「これ……」 「えっと、あの、今日の為に編んだんです……お渡しできればいいなと思って。だからあの……今日は寒いですし、良かったら使ってください」 自分でもついつい早口になってしまっているのが、わかる。 顔を直視できないまま告げた遙は、大きく深呼吸してから、おそるおそる弥鶴の顔を見上げた。 そこには。 「ん、サンキュー」 遙がよく知っている、弥鶴の笑顔があった。 ストールに触れて、ほかほかだねと語りかけてくる弥鶴の姿に、遙もつられるようにして笑う。 不安だった。迷惑だったらどうしよう、って思っていた。 でも……こんな風に笑顔で受け取ってくれて、すごく、嬉しい。
それからまた、他愛の無い会話を交わしながら2人は歩く。 駅までは、あと少し。そこまで着けば今夜はお別れ。残り僅かな時間を、少しでも大切にしたくて、遙は1秒1秒を噛み締める。 来年は……もっと、距離が近くなって。 もっともっと一緒に、2人で過ごせる時間が……どうか、増えますように。 弥鶴にバレないように、そう願いながら、遙はとびきりの笑顔を彼に向けた。
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