●『- Holy night - 』
今日は、恋人達にとって大切な日、クリスマス。 セレエルと霧華も、今日という日を特別に過ごそうとしている恋人達だ。 体育館でのダンスパーティーを終え、巨大なクリスマスツリーを見ながら、セレエルと霧華はしばらく、言葉を失っていた。 「こんなに、世界が綺麗な物だとは知りませんでした」 ――貴方に出会うまでは。と、続く言葉を心の奥へと押しやって、霧華に微笑みかけるセレエル。 「私も、貴方に出会ってから世界が大切だと知りましたよ」 セレエルが奥へと押しやった言葉を、霧華はしっかりと受け取って言葉を繋ぐ。 ――クリスマスの魔法。今日は、恋人達が心の奥底で繋がる日。 「皆が幸せなこの時、時間が止まってしまえばいい。僕はそう思うんです」 それは、ずっと孤独に満ちた生活を続けてきたからこその思いだったのかもしれない。 セレエルは再びツリーへと目をむけ、呟いていた。 そんな様子に、霧華もツリーへと目を向け、ゆっくりと言葉を選ぶように話し始める。 「私はね、セレエルさん。貴方との幸せな一時を、刻んでいきたいと思っています」 それでは、セレエルの寂しい心は前に進めないままだと、霧華は思う。 何度でも同じ時を刻み続ける、カイロスの時計のように。 「過去や現在。留まったままなんて、寂しすぎます。私が共に未来へと向かって歩んでいきますから」 一つ、一つ。時計の針を動かすように、霧華はセレエルに優しく微笑みかける。 「霧華さん……」 そんな優しい彼女を、セレエルは心から愛おしいとそう思えた。 彼女となら、僕は前へ進んでゆける、と……。 「メリークリスマス」 心にあふれる想いがままに、2人は声をそろえ、互いに祝福を交わす。 「僕は貴方へとプレゼントがあるんです」 「勿論、私も貴方へとプレゼントがありますよ」 そういって2人が取り出したクリスマスプレゼント。 打ち合わせをしたわけでもなく、彼らが用意したプレゼントは同じようなものだった。 セレエルが用意したのは、ファレノプシスの花を模した銀の指輪。 霧華が用意したものも、イフェイオンの花を模した白銀の指輪。 2人とも似たような事を考えていたのだ。 そんな偶然にセレエルが照れくさそうに笑い、霧華は優しげに微笑む。 そして、どちらからともなく、互いのプレゼントをはめる。――約束の指へと。 「霧華さん……貴方に出会えて本当に良かった」 先は口に出来なかった想いを、セレエルは霧華の手をとりながら伝える。 未来へと進む為に、はっきりと言葉にして。 「僕は今、幸せです……霧華さん、貴方を愛してします」 甘く囁くような愛の言葉。 「私も……貴方を愛しています……」 それをしっかりと受け止めて、霧華も答えを返すのだった。 きっと2人はこれからも前を見続けて、進んでいくのだろう。 聖なる夜に、彼らの恋は愛へと変わっていったのだから……。
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