和宮・優姫 & エミル・サージュ

●『メリークリスマス!!皆さんにも幸せのおすそ分けを♪』

「メリークリスマス!」
 聖夜。雪に彩られる町を、二つの人影が空に舞う。
「皆さんに、幸せという名のプレゼントを贈りに来ました♪」
 恋人の腕に抱きかかえられながら、少女は眼下の町を見下ろしていた。漆黒の瞳、深遠の黒き宝珠にも似た眼差しが、雪降る町を優しく見つめている。
 恋人の腕の中で嬉しそうに微笑んでいるのは、和宮・優姫。
 ロザリオを首から下げた少女は、風紀委員にして、ある男の心を射止めた射手。彼女が着ているのは、聖夜にふさわしい赤き聖人の衣装。肩から下げるは、大量の贈り物が詰まった大きく白い袋。
 そして、もう一人。恋人を抱きかかえた、麗しき美青年。
 その青年が持つのは、黄金の炎がきらめくかのような髪に、サファイヤも嫉妬しそうな美しき蒼き瞳。白き肌は、男性とは思えぬ妖しき色気をもかもし出す。
 どこかの城から姫をさらってきたかのように、彼は優姫を抱き上げて、夜空を跳躍していた。
「今宵だけは、皆に幸せの雪が積もらん事を……」
 恋人をその腕に抱く男は、殺戮者の危険な雰囲気と、貴公子の高貴な雰囲気を漂わせている。彼は盗賊、優姫の心を盗み取った盗賊。
 その名は、エミル・サージュ。
 エミルの腕の中、優姫は手にした袋に手を入れ、中のものを空より振りまく。
 そこから放たれるは、大きさも形もさまざまなクリスマスプレゼント。雪とともに地面へと向かう数々の贈り物に、優姫は期待を込めた視線を向けていた。

 そう、今宵はクリスマス。この日は、私たちにとってとても幸せな日。私たちが、幸せになった日、幸せと言うものを知った日。
 世界には、いや、この町の街角にすら、悲しみに捕らわれている人がいます。こうやっているこの瞬間にも、泣いている人がいるでしょう。明日を迎えるのを、不安に思う人もいるのでしょう。
 でも、だからこそ。今宵だけでも、一瞬だけでもいい、幸せになってほしい。
 かつての私たちも、不安と悲しみに捕らわれていました。だからこそ、他の皆さんにも、町行く全ての人たちにも、この日は幸せになってほしいです。私たちが幸せになれた日に、幸せになってもらいたいです。
 誰かを好きになった事で、世界が輝いて見えるようになりました。この夜空ですら、明るく綺麗に見えるようになりました。
 こんな素敵な気持ちを、皆さんにも伝えたいし、感じて欲しい。
 カップルの人たちにも、一人の人にも、かつてカップルだった人たちにも、カップルになりたての人たちにも、私たちからの「幸せ」という名のプレゼントをおすそ分けしちゃいます。
「さぁ、プレゼント。受け取って下さいな」



イラストレーター名:参太郎