●『私の秘密をあなたに…』
吐く息も白く煙る、クリスマスの夜。パメラと日向の二人が、雑居ビルの屋上から夜の町並みを見下ろしている。
「今まで私の父の命日の度に眺めていた風景だけど、今日は日向クンにこれを見せたくて誘ってみたの」
言いながら熱い缶コーヒーを傾けるが、その焼けるような熱さもこの寒さをしのぐには丁度良かった。日向は甘めの缶コーヒーに口をつけながら、ふぅふぅと吐息で冷ましているようだ。そんな仕草ひとつも彼女には愛らしい。
「私が能力者として戦っている動機を確かめる場所が、ココよ。――日向クン、見て」
パメラが、柵越しに見える眼下の町並みに視線を移した。不思議な表情で、日向もそれを見下ろす。黒い町並みに点々と星のような瞬きがある。それは人々が生活する光、人々が平和に生活を営んでいる証拠だ。
「あの灯り一つ一つに、人々の暮らしがある……それを思うと、その人たちが愛おしいの。だからからこそ私は、名前も知らない他人をゴーストから護る事ができる」
自分で確かめるかのように、パメラは言葉を口にする。日向はじぃっと、宝石のような街の輝きを見つめている。
「今まで、ひとには絶対話した事の無い『私が戦う理由』を、日向クンだけにそっと打ち明けるわね」
パメラが町並みから視線を外し、膝を畳んで姿勢を低くした。まだ背の小さい日向に合わせて、視線を同じ高さにする。
「クリスマスなのにロマンチックな話じゃないけど……」
パメラは自嘲気味に苦笑しつつ、肩に掛かった己の長い髪を後ろに移す。そして真っ直ぐに日向を見据える。
「日向クンにだけは知ってほしいの……私の秘密」
真摯ながらも穏やかな色を含むパメラの視線を、日向は無表情で受け止めている。大きな双眸がぱちくりと瞬きをした後、彼の首がこくりと縦に動いた。パメラは微笑み、そしてぽつぽつと語り始める。己の過去と、いま胸の奥に秘める、戦いへの決意を。
遠巻きに聴こえてくるクリスマス・ミュージックの調べが、二人のささやかな聖夜を小さく彩っている。
| |
＆ 仁科・日向
