●『ホワイトクリスマスの夜に…』
今日は空気が澄んでいて、ひどく冷える日だった。緋弾と雪穂は、クリスマスイルミネーションが彩る街並みを歩いていた。 「……人が多いな」 「そうだね〜」 人波の中、緋弾はぽつりと呟く。雪穂がそっと彼に寄り添う中、頭をめぐらせた彼は、ある一点が目に留まる。 「ん、あそこの公園は人が少ないな」 彼が見つけたのは、少し高台にある公園だった。見た限り、人影は見えない。二人は頷いて、公園へ向かった。 「人、いないみたいだね」 たどり着いた公園は見た限り人影は皆無、たった二人きり、という最高のシチュエーションだ。そのまま、近くにあった木製のベンチに並んで腰を落ち着けた。そして、それぞれが準備したプレゼントを交換する。緋弾は和紙に包まれた細い紙箱を、雪穂は両手で持つくらいの大きさの箱を、お互いに手渡す。早速包みを開けてみた。 「わー、綺麗な扇! 国津君ありがとう」 雪穂が開けた紙箱の中には、桜と雪の吹雪が描かれた扇が入っていた。喜ぶ雪穂の顔を見て、緋弾の頬も緩む。彼の元にある箱の中には、綺麗にデコレーションされた、ホワイトチョコのブッシュドノエルが入っていた。 「美味しそうなケーキだね、ありがとう。……帰ったら一緒に食べよう」 そしてふと街の方に目を向ければ、眩しく飾られた街の景色が二人の視界に飛び込んでくる。 「きらきらして、クリスマスーって感じだね♪」 「光の洪水って感じだな」 眼下に見下ろす街のイルミネーションは、二人だけのものになったかのようだった。 「あっ、あれ! ピンクの可愛いいなぁ!」 「ん、どれどれ? ……本当だ、可愛いな」 雪穂がお気に入りを見つけたらしく、街の右の方にある一角を指差す。緋弾がそちらを向けば、自然に二人の距離が狭くなる。そんな時。 「あ、雪」 どちらともなく呟いた言葉の通り、空からは真っ白な雪が降って来た。不意に、緋弾は彼女の肩を抱き、体を寄せる。 「……寒くないか? ほら、こっちへ」 そのまま、彼女を雪の寒さから守るようにしっかりと抱き寄せる。雪穂は彼の突然の行為に、真っ赤になってうつむいてしまう。 「わわっ私は、大丈夫だけど……国津君は寒いよね……?」 恋人の身を案じるものの、羞恥心が邪魔をして、中々顔を上げられずにいた。 「こうしたら暖かいよ、雪穂」 名前を呼ぶ彼の声に顔を上げた瞬間、冷えた頬に暖かいものが触れる。きょとんとしている間に、『それ』はまた唇に触れた。一瞬だけマヒしていた思考が復活し、彼にキスされているのだと気づいた瞬間……雪穂の思考は、雪のようにふわりと蕩けてしまった。そのまま、頬を桜色に染めた恋人の吐息を近くに感じながら、共に光の洪水を眺める。 「はにゃあ」 最も、かわいい恋人のほうは、心ここにあらずといった様子ではあったが。二人きりのホワイトクリスマスは夢のようだったけれど、それが夢でない事は、二人だけが知っている。
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