●『3年目の口づけ』
テーブルの上、クリスマスケーキの乗った大皿が、カインの前に置かれる。 「さあ、カイン様。どうぞ召し上がって下さいませ」 「待ってましたっ、イルヴァの手作りケーキ! いっただっきまーす!」 言うが早いか、カインの手がフォークへと伸びる。しっとりと美しくデコレーションされたケーキにフォークを一刺し、満面の笑みで頬張って。 「……おいしー♪」 「ありがとうございます」 ニコニコ顔で頷くカインに、イルヴァも控えめな、けれどとても幸せそうな笑みを返す。 自分の料理がカインの笑顔を作っている。そう思うとイルヴァの胸はいつだってふわふわと温かくなるのだ。 「昔はイルヴァの料理食べて、倒れたこともあったのにね♪」 「もう、カイン様ったら! そんな大昔のこと!」 頬をふくらませたイルヴァがぽす、とクッションでカインの頭を叩く。それを避けもせずに受け止めて、「うわあごめん、ごめんよイルヴァ〜」とカインは笑う。イルヴァだってクスクスと笑っていた。お互い本気なんかじゃない。子猫がじゃれあって噛み付いているようなものだ。 「俺たちが付き合い始めて、もう三年だもんね。……こんなに可愛い恋人がいて、俺は本当に幸せだよ」 「……もう、カイン様ったら……」 ふいに真剣に見つめられ、イルヴァが顔を背ける。ほんのり赤くなった頬を隠すように、銀の髪がふわりと広がった。 ――特別な日を二人で過ごすたび、昨日よりももっとカインのことが愛しくなっていく。そんな大事な彼と過ごす二人っきりのクリスマス、恋人たちの夜なのだから。 (「……少しだけ、大胆になってもいいですわよね?」) キスして欲しい、なんて恥ずかしくて言えないけど。 「イルヴァ?」 急に黙り込んだ恋人に、カインが首を傾げる。頬にかかる髪をはらえば、しっとりと濡れた黒真珠の瞳がこちらを見上げていて、カインの指先がぎくりと固まる。 (「こ、これはまさか……!? や、やっぱりあれかな、男の俺から言うべきなのかな……!? で、でも恥ずかしいっ……!」) ぐるぐる、ミルクを注いだカフェオレみたいにカインの思考と視界が回る。そんな中でもイルヴァの姿だけはゆがむこともなくくっきりと鮮明なのが不思議だった。否。イルヴァはいつだってカインの心の中心にいるのだから、ゆがむことなんてありえないのだ。 (「ええい、ままよっ!」) イルヴァの細い肩を引き寄せ、ぷるぷる震えながら顔を近づける。 言葉にできない想いなら、行動で示せばいい。鼻先が擦れ合う感触にぎゅっと目を閉じて、カインはイルヴァに口付けた。
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