●『今宵の聖夜は、少し特別な聖夜に』
「お風呂いただいたで。ほんまにごめんなぁ」 「気にしないでください、ボクはむしろ嬉しいですから」 長い黒髪をタオルで拭きながら申し訳なさそうに謝るユウキに、渉はほがらかな笑顔を向けた。 なぜ謝っているのかというと、理由は少し前に遡る。 一緒にクリスマスを過ごさないかと誘われ、ユウキは渉の家を訪れた。おしゃべりを楽しみ、クリスマスケーキや料理に舌鼓を打ち、窓の外で雪が降っているのを見てホワイトクリスマスだと喜び、二人でその風景を眺め……と充実した時間を過ごしていた。 が、その綺麗な雪は絶え間なく降り注ぎ、ふと気がつけば家に帰れないくらい積もってしまっていた。 泊まっていってほしいと促す渉に、最初は遠慮していたユウキもとうとう首を縦に振ったのだった。
「というかこっちこそごめんなさい、ベッドが一つしかなくて……狭くないですか?」 「平気平気、あったかくてちょうどええよ」 「よかった……ふふ、なんだか小さい子になった気分です」 「うちもや。懐かしい感覚やなあ」 同じベッドに潜り込んでからも、二人はなかなか寝付けなかった。 年に一度の特別な日に、恋人の家に泊まる(あるいは恋人を家に泊める)という特別なことをしているのだ。お互いに気分が高揚して目が冴えたままだった。 「そういえば、ボクたちがお付き合いをはじめてから、もう一年たってるんですね」 「ああ、ほんまや……幸せな時間は、なんでこんなに過ぎるのが早く感じるんやろか」 それを聞いた渉が、ふと嬉しそうな笑みを浮かべた。ユウキはきょとんと目をしばたかせる。 「どないしたん? うち、おもろいこと言うた?」 「その……ボクと一緒に過ごした時間を幸せに感じてくれてたんだなって、嬉しくなって」 「……そないなこと、当たり前やろ」 あまりにも嬉しそうに笑うから、思わずぷい、と顔を逸らしてしまう。 ベッドに入ってはじめて、沈黙が落ちた。
窓の外では、相変わらず雪が静かに降り続けている。時間もこんな風に刻一刻と過ぎていく。 変わらないものはないと言うけれど、大切な人と共にいる時間だけは、いつまでも変わらないでいられるだろうか――。 急に心細くなって、傍らにあるぬくもりに手を伸ばす。指先が絡み合ったのはほとんど同時だった。少し驚いて見詰め合った瞳に、どちらからともなく手を伸ばしあったのだと悟って、改めて手と手を握り合う。 二人は向かい合い照れ臭そうに微笑んだ。同じことを考えているのが可笑しくて、同じことをしてくれたのが嬉しくて。
「ユウキさん……えっと、これからも一緒にいてくれませんか?」 「大丈夫、ずっと一緒やよ♪」 少しまだ照れの残る渉に、ユウキも照れ隠しのようにおどけた口調で囁き返す。 ――この聖夜の雪に感謝しよう。きっとこれは、サンタクロースがくれたプレゼントだから。 やがて静かに目を閉じて――二つの影はゆっくりと一つに重なった。
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