●『地上の星雪』
きらきらと冷たくない雪が光るケヤキ並木。満天の星空のような並木道をアインと麻凜は2人、手を繋いで歩いていた。 (「始めて一緒に過ごすクリスマス……か」) 出会ってからこれまでの事に思いを馳せ、麻凜は感慨深そうにふぅっと息を吐く。白い息が張り詰めた冬の空気に溶けて消えた。高鳴る鼓動の一方で、外気に触れる指先が冷えていく。 アインには心地良い冬の空気だが、他の人には身を切る寒さだ。繋いだ麻凜の手はすっかり冷たくなっていた。 「寒くない?」 麻凜が流石に少し寒いなと感じた時、アインから声が掛けられた。同時にアインは麻凜の手を両手に取り温める。 「ぁ、いや大丈夫……慣れてるし」 実際は寒いのだが、余りのタイミングの良さについ慌ててしまい、『慣れてる』なんて理由といえるかどうかわからない理由で否定してしまう麻凜。しかしアインは構わず続ける。 「……頬も冷たいな」 と、両手を麻凜の頬に沿える。心配そうなアインの顔が近い。恥ずかしさで段々頬が紅潮していくのが解る。 「そ、そう……か?」 戸惑いながらも言い掛けたその時、不意に唇を塞がれて……。 「ッ!!? な、なんっで……!!」 余りの慌てようにうまく言葉が出ない。そんな麻凜を穏やかな笑みで見詰めながら、 「寒さで赤くなった君がただ、かわいかったから」 などと悪びれる事も無く、素直な感想を口にするアイン。更に顔を真っ赤にして言葉に詰まる麻凜にくすりと笑いかけ、もう一言囁き掛ける。 「……そんな理由じゃ、ダメか?」 「こ、こんないつ人が通るかわからん所で……って、そんな事言われたら嫌だとか言える訳が無いだろうに……ッ」 アインだけが見る事のできる、普段はクールな麻凜の照れながら強がる姿。甘い空気に弱い愛しい愛しい彼女。 「さて、この後何処に行こうか?」 何処だって良い。君と一緒なら。こんな事言ったらまた照れまくってしまうのだろうなと思いながら、優しい笑みで問い掛ける。 自分がこんなに慌てているのに、余裕の笑みを浮かべているアインをちょっと睨んでみる。いつもこんな調子でやっつけられてしまうのが悔しい……が、それも含めてこの人の隣が居心地が良い。願わくば、ずっと一緒に居たいと想う。 「アインが……好きなトコで、良い」 わざと少し拗ねたように言ってみるが、どうせ内心なんて見透かしているのだろう。アインの微笑が崩れる事はない。ずるいなぁ、なんて思い浮かべながら、麻凜はそっとアインの肩に身を寄せる。愛おしい人と離れぬようにと祈りながら。 雪のような地上の星達が、2人を祝福するように輝き続けていた。いつまでも。いつまでも――。
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