山科・月子 & 守森・秋飛

●『思いがけないクリスマス』

 予定が狂う、というのは誰しもあること。何の変哲もない一日でも、特別な日でも、それは割と平等に訪れてしまう。
 今日はクリスマス、友人と遊ぶ予定をキャンセルされてしまった月子は賑わう街を横目にぼんやりと歩いていた。急に空いた予定を埋められる何かが、この楽しげな空間に落ちているとは思えない。それぞれが待っていた特別な一日を、皆心から楽しんでいるように見える。そんなものだと分かっていても、若干の寂しさが心に生まれるのは仕方がないだろう。
 そんな、ため息混じりに歩く月子の前にあらわれたのは秋飛だった。月子と同じように、どこか所在なさげな雰囲気を纏っている。月子がこれ幸いと捕まえて話を聞けば、どうやら秋飛はバイトの予定がなくなってしまったらしい。お互いの身の上に起きた奇妙な偶然を笑い、それなら暇な者同士で、と共に歩き出すふたり。

 とはいえ、やはりクリスマスの夜はどこも混んでいる。足を運んでみた店はことごとく満席だ。それでもめげないふたりの手には、ファストフードの紙袋。出来たてのぬくもりを寒空の下で食べるのもまたおつなもの。紙カップに入ったあつあつのコーヒー、チキンの香り、合間にこぼれるふたりの笑い声と白い吐息は決して寂しいものじゃない。
 コーヒーで指先があたたまったのも束の間、頬に冷たいものを感じて秋飛が顔を上げる。見れば、夜の重たい空からひらりと雪が舞っていた。ホワイトクリスマスだと浮かれるのは屋根のあるところに避難してからだ! 食事もそこそこに月子が駆け出すと、秋飛も慌てて後を追う。月子からつないだ手の感触に、どうしてもどぎまぎしてしまう秋飛。指先が熱いのはコーヒーのせいだけではないだろう。決して恋人というわけじゃないけれど、少しは特別な関係になれたのだろうか? そんなことを思いながらちらつく雪の中を走れば、月子のはしゃいだ表情も途端に意味深に見えてしまいそうだ。

 それでも、思いがけず訪れた楽しい時間にふたりは笑う。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス!」
 プレゼントもケーキも無いけれど、いつの日かきっと思い出すのだろう。偶然というサプライズが、ふたりの思い出を優しく彩った今夜のことを。



イラストレーター名:ling