遠野・葛葉 & 鬼庭・律

●『二人が一緒なら、いつでもどこでも……』

「あ、見てください。向こうはピンクのハートですね」
 葛葉が指差す先には大樹を飾るイルミネーション。周りの沢山の電飾がクリスマスのムードを盛り上げる。
 律と葛葉の手には、先程交換したばかりの包み紙。どちらも恋人を想って贈ったプレゼントだ。
「人が多いですけれど、行ってみましょうか?」
 律の言葉に、葛葉は肩を竦めて頷く。
 北国育ちの葛葉にとって、鎌倉の寒さは我慢できない程のものではない。しかし、日が落ちてからは予想以上に冷える。葛葉の薄手のセーターには、綿のような雪が降り始めていた。
 決して鎌倉の寒さを侮っていたわけでも、自分を過信していたわけでもない。
 大切な人に贈るクリスマスプレゼントのマフラーの事で、待ち合わせ時間ぎりぎりまで頭がいっぱいだったのだ。
 一潜り一潜り恋人を想って編んだマフラー。
 彼の笑顔。
 彼の声。
 思い出しながら、心を込めて編んだ結果――それは、床を引きずる程の長さとなってしまっていた。
 そして、毛糸を解いてやり直そうか、間に合うだろうかと悩んでいるうちに、気付けば待ち合わせの時刻。慌ててマフラーを包み、上着も持たずに部屋を飛び出したのだった。
 煌く幾つも明かりの中、葛葉は両腕を押さえ律の横に並び歩こうとする。
 寒さと二人でいる時間を天秤に掛ければ、どちらを重視すべきかは考えるまでもなかった。
 と、ふいに葛葉の首を暖かなそれが覆う。
 見覚えのないはずはない。
 想いの分だけ長くなった律へのクリスマスプレゼント。
 更に、葛葉の右肩に掛けられたのは律の大きなコート。
「……大きすぎるのがいいという事もあります、ね」
 律は恥かしそうに微笑みながら、尊敬する人から譲り受けた大きなコートの左肩を支える。早くこのコートが似合う位に成長したいと思ってはいるが、今だけは、大切な人を寒さから守るその大きさに感謝する。
「こうやってくっつくと、もっと温かいですよ……?」
 彼の優しさに頬を染めながら、葛葉は青いブレスレットをつけた手で彼の腕に抱きつく。

 二人で一つの長過ぎるマフラーを巻き、二人で一つのコートに入り……二人は冬の寒さも吹き飛ぶような温かさを傍に感じつつ、すっかりホワイトクリスマスとなったイルミネーションの街並みを歩いていった。



イラストレーター名:星の人