●『Sweet Hearts』
聖夜。恋人達の恋の花が、そこかしこで咲き乱れる、甘い一夜。 クリームイエローを基調にした、肩が出て胸元の開いたドレスに身を包む少女。彼女はレイラ。黒き瞳と金髪を持つ少女、レイラ・ミツルギ。 彼女はただ一人、会場の隅で佇んでいた。 ここは花園、パーティの舞踏会という名の花園。花園に咲くは、美しき花々。様々な美女と美少女が集まり、パートナーと共に語らい、舞踏を楽しみ、愛の口づけを交わしている。 「……来ないの、かな……」 レイラのパートナーは、未だ姿を現さず。が、レイラがつぶやいたその時。 「……そこの、お嬢さん」 蝶ネクタイと黒いタキシード姿の人物が、レイラへと近づき、声をかけ、手を差し出した。 「よろしければ、一曲踊っていただけますか?」 声の主は、彼女の待ち人。 ボブカットの髪型に、メガネをかけた眠たげな眼差し。白いワイシャツでも隠し切れない豊かな胸。 レイラはその姿を見て、思わず微笑んだ。 「はい……よろこんで」 タキシード姿の女性、桂木・京。レイラの大切なパートナー。レイラにとって、もっとも愛しい恋人。彼女の差し出した手をとり、レイラはダンス会場の中心へとエスコートされていった。 「そういえば……」 音楽に、そして京に身を任せながら、レイラは言葉を口にした。 「ん?」 「去年、付き合い始めた時も、こうでしたね」 「そうね。去年もこんな舞踏会で、こんな風にレイラと踊って……」 優しい曲が、会場に流れる。ドレスの少女と、黒き服を着た少女とが、音楽とともに踊り、言葉を交わしていた。 「京、覚えてる?」 「ええ。あの時は、お互いドレスを着ていたわね……」 「また、見てみたいです。京のドレス姿。とっても、素敵でした」 「あらレイラ、じゃあ今の私は?」 「ふふっ。もちろん、今の京も素敵ですよ」
「ところでレイラ」 今度は、京がレイラへ言葉を。ちょっとばかり、意地悪げな口調。 「……な、何?」 「……少し、増えたかな?」 その言葉の発する意味を知ると、レイラは思わず頬が熱くなる。 「え? はわっ! うう〜、ちょっとケーキ、食べすぎちゃったかなぁ……」 「ま、私は気にしないわ。それに……その方がドレス、似合うけどね」 意地悪げに微笑む京の視線。それが向けられているのは、他ならぬレイラの胸元、豊かな二つの膨らみ。 「は、はわわっ! まったく、もう……えっち……なん、ですから」 恥ずかしくなって、言葉尻が小さくなる。 「ふふ、ごめんごめん」 「……謝ったってだめです、京。だから……」 今度は、レイラが仕掛ける番。 「だから……仕返しです」 レイラは踊りながら眼を閉じ、そして……京の唇へと、唇を重ねた。 「……メリークリスマス、京」 「……メリークリスマス、レイラ」 まるで、花びらに口づけするかのような、甘美な想い。 甘い花園で、美少女と美少女、美しき恋人達は愛しあいながら、いつまでも踊り続けていた。
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