犬童・一視 & 閂・枢

●『家族の団欒 ?』

 クリスマスの日とはいえ、仕事がある人もいる。一視と枢も、その例には漏れない。ようやく帰宅できたのも、日は全て落ちきった後だった。
「疲れた……」
「お疲れ様」
 ぐっと伸びをする一視を、傍らに佇む枢が労う。なんだかそれだけで、長年連れ添った家族にも似た雰囲気が伺える。一視はそのまま台所に向かい、枢は寝室へ。電気のついていない部屋の中には、光る四つの球体が浮かび上がる。ぱちりと電気をつければ、『それ』がなんだかすぐにわかった。
「おいで……」
 ぽふり、と柔らかい布団の上に座り込んだ枢に駆け寄ってきた『それ』は……黒いのと白いのと。柔らかな毛並みを持つ猫達だった。さっき光っていたのも、彼らの目である。この子達も、二人にとっては大事な家族だ。
「よし、よし。留守番、お疲れ様」
 真っ白な子猫は膝の頭の上にのっかり、嬉しそうに太ももに頬寄せる。黒い子猫は、かしかしとふとももによじ登ろうとしていた。そして不意に飛び上がったかと思うと、スカートの中へと潜り込んだ。
「ひゃっ……!?」
 慌てた拍子に悲鳴が上がる。そこに、一視が戻ってきた。
「どうした枢……あ」
 しかし、少しまくりあがったスカートを見て赤面し、硬直してしまう。
「ちょ、これは、ど、どうすりゃ」
 あたふたしながら、どうすることもできない一視。その間も、黒猫はもぞもぞとスカートの中へともぐりこんでいく。なんだかちょっぴりくすぐったくて、頬が淡いピンク色に染まる枢。
「つ、摘み上げるわけにも、いかねえし……」
 第一それでは、ほら。触ってしまうかもしれないし。見えてしまうかもしれないし。微妙な所で躊躇ってしまう。少なくともスカートに手を突っ込むわけにはいかない。躊躇っているうちに……枢が、ひょいと黒猫の首根っこを捕まえた。しばらく空中で暴れていたが、そのうち黒猫が大人しくなる。
「めっ」
 枢が黒猫と目を合わせてそう言うと、猫はうなだれたように『にゃー』と鳴いた。なんだか、一視一人だけが焦ってしまっていたようだ。
「全く……お前らときたら」
 真っ白な子猫のほうを抱え上げた。そして二人で顔を見合わせて……二人で微笑みあう。残った二人の『家族』達は……幸せそうに、『にゃあ』と鳴いた。
 そんな、なんでもないけれど、何物にも変えがたい平和な夜の出来事。



イラストレーター名:黒糖MiMi