桜庭・柚樹 & 東・理緒

●『二人だけの聖なる夜』

 聖夜のひと時を祝うべく、コテージには二人の男女が調理していた。
 柚樹は理緒とともに、コテージ内のキッチンに立っていた。二人とも、クリスマスパーティーでのひと時が終わり、その後で一緒に過ごすためにコテージを借りていたのだ。
 聖夜のディナーを一緒に作り、一緒に食べる。理緒が偶然、鎌倉内部で借りられるコテージを見つけて場所を確保してくれていた。そこに材料を持ち込み、二人は一緒に調理を行っていた。
 柚樹は今、ケーキの飾りつけを行っている。クリームがスポンジに塗られ、残るはフルーツのトッピング。
 ふと思い出し、柚樹はオーブンの方を向いて言った。
「理緒君。鳥の丸焼きの方は、もうすぐ焼きあがるよ?」
「ん、わかった。オーブンから出しておくな」
 理緒もまた、ディナーの調理をともに楽しんでいるかのようだ。
 チキンとともにテーブルに並ぶは、見ているだけでつばがわきそうな料理。
 スティック野菜とパテのオードブル。
 チーズ入りのミートローフ。
 シーフードがたっぷり入ったブイヤベース。
 ほうれん草とベーコンのキッシュ。
 その様は、まるでカーニバル。色とりどりの山車がパレードしているみたい。
「そっちはどうだい?」
 今度は、理緒が訊ねる。
「こっちのケーキも、飾りつけ終わりそうよ」
 用意したフルーツ各種を彩りよく飾り付け、最後にマジパンで作った雪だるま。
「できたっ」
 うん、上出来。

 料理は全て完成し、テーブル上に並んでいる。
 メインのローストチキンも、これまたうまく焼けていた。パリッと焼けた皮と、柔らかそうな汁気たっぷりの肉。滴る肉汁が良い香りを放ち、空腹感を刺激する。サンタ帽を被った二人は、それを見ながら隣同士に座っていた。
 が、柚樹はちょっと恥ずかしかった。……二人きりという事を、不意に意識してしまったのだ。
 それは、理緒も同じようだ。視線をそらし、明後日の方向を向いている。
「あ、雪だ……」
 沈黙を、理緒が破った。食卓から臨む窓から、雪が降っているのが見えたのだ。
「……雪景色、とても……綺麗ね」
 理緒とともに、柚樹は窓の外を見た。そこには、一面の銀世界。ケーキのと同じ雪だるまが、そこに立っているのが見えた。
「……ふふっ」
 いつしか、二人は見つめあい、そして、微笑んだ。
「メリークリスマス、柚樹」
「メリークリスマス、理緒君」
 互いにボトルの中身をグラスに注ぎ、フォークを手に。
「さあ、食べようぜ。僕はもう腹ペコだよ」
「うん、そうね……ええっ?」
 理緒が、ケーキをフォークで一口に切り取り、それを柚樹へと差し出したのだ。
「はい、あーん」
「……はむっ……うん、おいしい」
 ちょっと照れたけど、それをぱくりと口にする柚樹。
「じゃあ、今度はこっちから。はい、あーん」
 はじまった、二人きりのクリスマスパーティー。いつもより甘いな……と思いつつ、柚樹はディナーを味わいはじめた。



イラストレーター名:SATO