アリーセ・エルンスト & 南・優利

●『Neues Weihnachten』

 クリスマス・イブの夜、銀誓館学園の体育館でイベントが開催された。館内には電飾や星を散りばめられたクリスマスツリーが飾られ、煌めくシャンデリアが恋人達の姿を照らし出す。
 今夜は舞踏会。
 優利とアリーセも今宵の宴に参加していた。
「え、えっと……アリーセ、今日はありがとうございます……」
「私こそ、誘っていただいて感謝してますよ」
 硬さが取れない優利に、アリーセが穏やかに微笑みかける。
 この日のため、優利はカッターシャツに黒のズボンという少しラフな格好を用意した。ダンスなんてよくわからないし、変に気取らないほうがいい――そう思ったのだが、淡い緑色のドレスで着飾ったアリーセは、普段とは見違えるような雰囲気を漂わせていた。
(「今日のアリーセ、とても綺麗だな……」)
 アリーセの姿に緊張しつつ、苦笑する優利。
 ステージで始まった演奏が舞踏会の開幕を告げた。サックスやドラムが、時々アドリブを交えながらアップテンポなリズムを奏で出していく。
 優利は「こんな雰囲気は苦手」という様子で、頭を掻きながら手を差し出した。
「んあー……お手を」
「ええ、踊りましょう」
 差し延べられた手に、アリーセも手を重ねる。
「……あっ」
 何か思い出したような声を上げ、伏し目がちになるアリーセ。
(「……あ、あれ? 早速しくじった……?」)
 事前に手の差し出し方くらい調べておけばよかったと後悔した優利だったが、すぐにそれが勘違いだと気付いた。
(「そうだ……! よく考えたら、オレたちって手を繋ぐの初めてなんですよねー!!」)
 思わず真っ赤になる優利。
(「ここで怖じ気づいたら全部終わりになる……頑張るんだ、オレ!」)
 その瞬間、漢モードに突入した優利。
 心の中で「キリッ」という擬音を作りながら、アリーセに熱い視線を向ける。
「今日は敬語やめねえかな? 呼び捨てでいいから」
「優利……少し、恥ずかしいです」
 優利はちゃんとエスコートしながら踊るつもりだったが、そこは経験不足の悲しいところ、アリーセの足を踏んでしまうことも何度かあった。かといって、アリーセもそんなに上手いわけではない。
 お互い足を踏んでしまっても、笑顔で謝り合えばそれも楽しい思い出。「何を緊張していたのだろう」と、優利は思う。
 鳴り止まない音楽の中、心を開いて語り合い、踊り続ける2人。そんな事にも飽きてきた頃、2人は穏やかに互いの手を重ね合わせた。
 一時の夢も、いつか醒める時が来る。
 演奏はクライマックスに向けてテンポを増し、時計の針は終演の時刻に迫っていた。
 今宵、最後の夢。
 優利は、アリーセを背中から優しく抱きしめる。
「大好きだかんな……アリーセ。Merry Christmas!」
「……わ……私もですよ優利……Merry Christmas」
 瞳を閉ざし、幸せの噛み締めるアリーセ。
 やがて最後の曲も終わり、沸き起こった拍手と歓声が場内を包み込んでいた。



イラストレーター名:ちー