●『五度目の聖夜―幸せと不幸は紙一重―』
静寂に包まれ、聖夜に佇む廃教会。 訪れる者が居なくなった建物でも、聖夜の神聖なる空気で、まるで清楚な殉教者の姿を彷彿とさせる。 「……結局、此処に来るのはアンタとなのね」 月亮が口を開いた。 黒が基調で赤の差し色の入ったドレス、お洒落をして遊びに行く事など珍しいのだが、今宵は聖夜。 「まあ、いいじゃねぇか。今年も無事に二人でここにこれてよ」 軽く微笑む龍。 龍と月亮が共に過ごす聖夜は、今夜で5回目だ。 「メリークリスマス」 言葉と共に、龍は綺麗に包装された箱を月亮に差し出した。 「有り難う」 にっこり微笑んで、綺麗な包装を丁寧に解き、箱を開けて中身を取り出す。 龍と月の形をしたクリスタルのイヤリングと、それとお揃いになるようなネックレス。 「綺麗ね」 嬉しそうに微笑んだ月亮は最初にイヤリングをつけてみせる。次にネックレスをつけようとするも、留め具がなかなか上手く嵌らない。 「手伝ってやるよ」 ネックレスの留め具と悪戦苦闘する月亮を見かねた龍が、月亮の首の後ろに手を回し、留め具を月亮の手から受け取る。 確かに、この小さな留め具を見ないで嵌めるというのは少し難しいかもしれない。そんな事を考えるも、割とすんなり留め具を嵌めた。 「ん。これでよし」 すっと月亮の首の後ろから手を引き抜く。 その時、何かが龍の指に引っかかった。 ――スルッ。 はらりと外れる月亮の胸元を覆っていた布。 「……なっ」 龍の指が、月亮の首の後ろで結んであったドレスのリボンに引っかかって、解けたリボンと繋がっていたドレスの胸元は――。 一瞬何が起きたか分からない月亮だったが、顔を赤くして固まった龍を見て、事態を把握。 「!?〜〜〜〜〜っ!!!!」 顔を真っ赤にして、超音波的な声にならない悲鳴を上げ、 ――ゴスッ! 龍の頭を抱え、顎が砕ける程の勢いで、自分の膝に叩き付けた。 「っ!! …………」 龍は言い訳をする暇もなく――元から言い訳するつもりもなかったが、そのまま床に倒れてしまう。 「……そこで朝まで寝てなさい」 顔を赤くしながら冷たく言い放つ月亮は、解けた首のリボンを結び直し、龍をそのままに、さっさと廃教会を後にした。 「相変わらず、つれないな月は……ま、そこが好きなんだけどな」 龍は顔を赤い水溜り――自身の口や鼻から流れ出る血で出来た血溜まりに沈めながら、天井を見上げて意識を手放した。
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