●『光と雪のその中で』
「今日は、お休みを貰えて良かったですね」 今日はクリスマスイヴ。綺麗なイルミネーションで飾られた街を歩きながら、環奈は隣を歩く悠治に微笑みかける。それに対して、悠治は苦笑いを浮かべた。 「ああ、そうだな。そんなに暇ってわけじゃないのにな」 『デートだから』と言ったら、快く休ませてくれた。そんな自分の職場に、悠治は感謝しつつ……少しだけ、複雑な気持ちにもなるのだった。 「今日は、腕によりをかけて御馳走を作りますね」 「それは楽しみだな。あと、ケーキも取りに行かないと」 二人で、予約したケーキ屋に向かって歩いていく。 「はぁー。息白っ!」 「あっ、寒いので温かいスープも用意した方が良いでしょうか?」 「スープか。寒いし、ちょうどいいかもな」 そうして、他愛ない会話をしながら、ゆっくりと歩いていたのだが……寒さの話をしたから、寒さが身に染みてきたのだろう。環奈が、小さくくしゃみをしたのだ。 「大丈夫か? これ、貸してやるから」 環奈がマフラーをしていないことに気付き、悠治は自分のマフラーをそっと環奈に巻いてやる。すると、環奈は慌ててしまった。 「えっ、けど、ひーちゃんが寒くありませんか?」 悠治は、明日仕事があるはずだ。自分のせいで体を冷やして、風邪をひいて休むことになってしまったら、迷惑がかかる……。そう考えて、環奈は焦ってマフラーを返そうとしたのだが、それは悠治の手と微笑みに止められた。 「へーき、へーき。俺、今まで風邪とかあんまひいたことないし。俺より、みーちゃんの体を冷やす方が問題だろ。それに、こういう好意はありがたく受け取っとくもんだぜ?」 その優しさが嬉しくて、環奈は柔らかく微笑んだ。 「あ……ありがとうございます、ひーちゃん。ありがたく、お借りしますね」 そして、再び二人は歩き出す。互いの手を冷やさないように、しっかりと繋いで。幸せそうに、笑いながら。 美しく飾られたツリーが、そんな二人を祝福するかのように、輝いていた。
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