●『おこたでクリスマス』
今夜はクリスマス。 大切な人と一緒であれば、どんな場所で迎える聖夜であっても大切な時間に早変わり。 それがこたつであろうとも。 「紫門と過ごすのも四回目かぁ。なんだかあっという間だね」 いまやこの部屋は由美と紫門の二人だけのクリスマス会場のようなもの。 由美はこたつの上にセッティングされた数々の料理の中からクリスマスケーキを引き寄せて、ナイフで一人分を切り取る。 思えば、あんなことや、こんなこと。これまで紫門と共にあった過去の思い出の数々。振り返ることはたくさんある。 丁寧に皿に取り分けられたケーキは、紫門の前に差し出された。 待ち焦がれたといわんばかりの笑顔を浮かべて、紫門はケーキ皿を受け取ろうと手を伸ばす。 「へえ、奇遇だなぁ。俺もさ、由美と過ごすのも四度目だなって、ちょうどそのことを思ってた」 と言うと、由美は満面の笑みで瞳を輝かせた。 「由美、どうした?」 「ななな、なんでもないの!」 由美はケーキ皿を引っ込めてお皿の上に乗っているケーキをさらにフォークで切り取りはじめる。にこにこしながら鼻歌まで歌い出す。 (「……例によってシミジミしてきたというか、まったししてきたなぁ」) ほのぼのとしながら由美の様子を見守っていると、上機嫌な顔で彼女はフォークに取ったケーキを紫門の口に運ぶ。 「はい、紫門」 「ん?」 「あーんして」 「あーん」 ぱくり。 もぐもぐもぐ……。 紫門は満足そうにケーキを味わう。 (「ふふ、不思議」) どうしてだろう。 こうして一緒にいるだけで安らげる。 由美はもぐもぐする彼を頬杖をついて見つめる。 ゆるやかな時間。そして満たされた時間。 「紫門、ケーキも好きみたいだし、偶にはこういうのんびりしたのも良いよね」 「ほうひゃら」 「しゃべるなら食べてから」 といいながら由美が穏やかなぬくもりに浸っていると、ふと紫門の口元にケーキの食べ残しを見つけた。 むむ。 見逃せない。 由美はそっと体を寄せる。 「何?」 「ついてる。食べ残し」 と言って、口づける様にそれを舐め取った。 「……」 紫門はキョトンとして、暫し熟考。 「!?」 ようやく何が起きたのか理解した。頬を染めて驚きつつ。嬉しいけど、なんか恥ずかしい。どう反応すりゃいいんだよぉ! 「えへへ」 目の前には由美の幸せそうな笑顔。 (「……やっぱり俺は甘いなぁ……」)
聖なる夜。 重ねゆく想い。 今日もこたつはあたたかい。
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