●『プレゼントフォーユー』
クリスマス。カナメと和樹、一組の男女は聖なる夜にケーキを突きながら思い出に浸っていた。 こんな夜は、今日という日は記憶が蘇る。渡されたプレゼントを見るたび思い出す。ケーキを口に運ぶたびに思い出す。隣に座る想い人の顔を見るたびに思い出す。それはパーティー会場での出来事で、カナメが和樹に心さらわれた日の出来事。 当時の事が脳裏に浮かんで、カナメの顔に笑みが浮かぶ。 「去年は貴方が私をさらいに来たのよね……早いものね」 「そうですね。もう一年経ってしまいました」 月日が流れるのは速い。つい昨日の事のようにも思える。駆け抜けるような日常。戦いや危険が消えぬ日々の中で、このような思い出は一層輝きを増す。目を閉じれば思い出す。恋人になった、あの日の事。 「……一年前までは、こうやってプレゼント渡す事なんて考えもしなかったのにね」 「そういえば、何をくれたんですか? 結構楽しみなんですが……」 「……まだ開けないで。帰ってからのお楽しみ」 ほんの少しの照れ臭さを醸しだし、カナメは和樹に釘を刺す。彼の為に用意して渡したプレゼント。悩んで考えて渡しただけあって、カナメの緊張は大きい。喜んでくれるかどうか、不安と期待の両方で胸が一杯になっている。 今だけは、冷静にはいられない。カナメの中の女の部分が高鳴って、クールに徹せられない。 それだけ、今の彼女は――和樹を好いている。 「残念ですね……ではせめて、プレゼントの代わりに……」 「……!」 照れているカナメを、後ろからそっと抱きしめる和樹。優しく、包み込むように、どこにも逃がさないと宣言するように。 すっぽりと、和樹の腕の中に納まるカナメ。 その温もりを感じて、カナメの中に去年の思い出が浮上する。 「……あの時も、そうだったわよね。こうやって、貴方にさらわれた」 「ええ。そうです。だから今年も同じ様に――貴女を掻っ攫っていきます」 その宣言に、笑みをこぼすカナメ。そしてどちらからともなく笑い合う。 思い出は消えない。日々は途絶えない。二人の時間は、これからも続き無くなる事は無いだろう。 過去と現在と、そして未来をその胸の中に抱きしめながら――二人の聖夜は更けていく。
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