●『出会い〜色の無い世界、音の無い世界〜』
音の無い世界――何も聴こえず、静寂が支配する。 淡く柔らかい光だけが、二人を優しく包む。 (「思い出すべ……、あの時も久瀬さんの手、ぬくかったべな」) 総子は背後に感じる温もりに背を預け、身を委ねた。 今は、あの時の再現。総子は声に出すことはせず、静かにそう思う。 あの時は、声を出しても、声が相手には届かなかったから――。
視覚と聴覚をほぼ封じた空間を作り出した、地縛霊相手の依頼が、二人の出会いのきっかけであった。 光も音も遮られた暗闇の中、久と総子は手を繋いで標的を探す。 総子は、地縛霊と言えど相手は女の子であり、久が暴走した時には手を握っていれば止められる、そんな考えも持っていたのだが。 (「結局、おらの手を離して、走って行ってしまったんだべな」) 最終的には、標的の地縛霊を暗闇の中で見つけ出し、仲間達と協力して依頼を成功させた、楽しく良い思い出である。
思い出して苦笑が浮かんだ。 「どうしたの?」 総子が薄闇に、ふっと苦笑したのが分かり、久が柔らかく微笑みながら訊ねた。 「なんでもないべさ。ちょっと思い出してただよ」 あの時を。続く言葉がなくとも、久はすぐに分かり、「あぁ」と苦笑を浮かべる。 ――ふわり。 ふいに久の腕が、優しく総子を抱きしめた。 心地良い温もりをお互いに感じる。 (「二次元相手では絶対味わえないこの温もり! 感触!」) 腕の中にいる大切で大好きな愛しい人を抱きしめる腕に少しだけ力がこもった。かつて失ってしまった愛しい人(限定版特典のヒロイン抱き枕)とは全く違う温もりと感触。 「!……」 その優しく力強い右腕に、うっすら頬を染めた総子の手が控えめに触れ、 (「おらの気持ち全部全部こうやったら伝わるかな?) 優しく力強いその腕を、ぎゅっと抱きしめた。自分の思いを込めて。 (「久瀬さん。大好きだべさ」) 久は、総子に抱きしめられている右腕はそのままに、左腕をすっと総子の頭上に移動させ、 (「総子、大好きだよ」) 総子の頭を、胸に広がる想いを込めて、優しく撫でる。 言葉がなくとも伝わる想い。
部屋のヒロイン達も、二人の幸せを祝福するように微笑んでいた。 (「これからもずっと一緒にいような?」) (「来年も、宜しくね」)
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