●『初 体 験 ☆』
静かな聖夜の一角。恋人になって初めてのクリスマスを祝うパートナー達は、さぞかし緊張している事だろう。しかし、優真の緊張はまた別の事が原因だった。原因は、目の前のキッチンでせわしなく動き回るパートナー奈都貴の、今の様子だった。 「あ、吹き零れてる〜!」 初めてのクリスマスだから、自分の作ったご飯をたくさん食べてほしいと優真にお願いしてキッチンにたった奈都貴。しかし、勢い込んだのはいいものの、野菜を切っても不恰好、肉を焼けば焼きすぎて、鍋を火にかければ吹き零れる。 「はぅ〜焼きすぎだぁ〜……失敗失敗」 (「だ、大丈夫か?」) そんな様子を眺める優真は気が気ではない。手伝いは前もって禁止されていたため、手を出すこともできない。そんな、お互いにハラハラどきどきのクッキングタイムがようやく終わり。 「はい、完成〜! どうかなぁ?」 えへんと自信満々の顔の奈都貴は、テーブルに並べられた料理の数々を示す。目の前の光景に、一瞬だけ戸惑う優真。なんというかこう、正直な話見た目はよくないが、努力のあとは見えるような気がする。しかし、これを愛しい恋人が努力して作ったものであると思うと、なんだか妙に嬉しくなって。そのまま、深い皿に盛られたクリームシチューをぱくり。まだ熱いミルクの味が口いっぱいに広がる。 「……ん、お前腕上げたな? 俺のために頑張ってくれたの?」 お世辞は抜いて、本音の言葉を冗談交じりで返す。以前食べた時よりも確実に進歩していた。 「えへ〜。優真君のためにがんばったんだよぅ。ボクの愛がいっぱいつまってるんです」 彼からの嬉しい感想に、頬杖ついていた奈都貴の頬も更に緩む。そして、おもむろにスプーンを取って、シチューをすくい、優真の口元に運ぶ。何事かを察した優真は、顔が真っ赤になった。 「はい、ゆーまくん、あーんしてぇ♪」 「いや、いやいやいやっ自分で食えるしっ!」 恥ずかしさゆえに慌てふためきながらあっちを向いたりこっちを向いたり。しかし奈都貴も諦めない。 「いいでしょ〜。ボクが食べさせてあげたいのだよぉ。はい、あ〜ん♪」 そしてとうとう、期待している彼女の瞳に優真が観念した。 「あ、あーん……」 恥ずかしそうに口を開けて、少し目を細くする。ひょいと口の中に入ってきたシチューの味は……さっきより少し、甘く感じられた。 「うん、ウマイ!」 でも、優真は自信を持って答えを返す。その言葉に、安堵と嬉しさの混じった笑顔を浮かべる。そして、箸を手に取った。 「じゃあ今度はこっちのお肉〜♪」 「こ、今度はこっちか」 そんな、幸せな恋人達の夜は、深々と更けていくのであった。
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