●『聖なる夜の空中散歩』
「今夜も月が奇麗だよ」 裕也に誘われて夜の散歩にやってきたのは、丘の上に建設中の高層ビルの上。 夜になれば誰もいない、二人だけの秘密の場所。 眼下には家々の灯りがどこまでも広がり、空には大きな月が青白く輝いている。 「最近、依頼で会えなくてごめんなさい……」 不安定な足場に躓かない様にエスコートしてくれる手を握りながら、少女は少年に謝る。 「でも、裕也さんが待っててくれたから、頑張れました」 鉄骨の上に腰かけた悠は、少年に向けてにっこりと微笑む。 「これ、私からのプレゼントです」 「――とても暖かいや。悠の心みたいだな。ありがとう」 少女が手渡したのは、あたたかい色をした手編みのマフラー。 受け取った少年は、満面の笑顔を浮かべて早速首に巻いてみせる。 「こっちは、俺から」 裕也は、月と太陽を模した水晶と銀細工の髪飾りを少女に贈る。 「ありがとう! ……どう、ですか?」 「思った通りだ。悠の綺麗な髪に似合う気がしたんだよ」 受け取り、首にかけて尋ねる少女に、裕也が満足げな笑みを浮かべる。 「あ……」 手放しの賛辞に頬を赤らめる悠の体を、そっと抱き寄せ、静かに唇を重ねる。 「一緒に居てくれてありがとう。楽しい時も辛い時も、悠と共にある事が嬉しく心強いんだ」 「はい。私も……」 少年への信頼を示すように、悠は少年に体を預ける。 地上の喧騒から離れ、二人きりの時間をゆっくりと過ごす。 なによりも大事なかけがえのないひとときを、真冬の澄んだ空気と舞い落ちる雪の花びらが幻想的に彩る。 「さ、お家までお送りしますよ、お嬢様♪」 笑顔を浮かべた裕也は悠を横抱きに、ふわりと空中へ身を躍らせる。 鉄骨や壁を足場にし、エアライドを使ってゆっくり降下する。 「にゃー!? 何度やっても慣れませんー!?」 「はは、なんたって『空中散歩』だからな♪」 悪戯げな笑い声をあげながら、裕也は『大事なもの』を確かめるように少女の体をぎゅっと抱きしめる。 先のことはわからないけれど。 一番大事な――彼女との時間を守るために頑張ろうと、決意を新たにしつつ、夜を駆けていくのだった。
| |