●『何故こうなった?』『去年のお返しです♪』
(「……何故こんな事に……」) スペルヴィアは、身につけている――つけさせられた物を見ながら嘆息した。
「すまない……今年もまた予定が……」 スペルヴィアが申し訳なさそうな顔をして口を開いた瞬間、 ――ゴゴゴゴ。 部屋の温度が一気に下がった気がする。 にっこり綺麗に微笑む、真雪女である氷女。背後に青い炎のようなオーラが見える気がする。 綺麗な笑顔が物凄い迫力だ。一目散に逃げ出してしまいたい衝動を呼び起こす。 ――ジャラ。 しかも、手にはいつの間にか鎖と首輪が握られていた。 「ま、待て。その手に持っているのは……まさかと思うが……」 「きっと似合います」 慌てて制止するスペルヴィアの言葉など、聞いていないような笑顔の氷女。 氷女の手は、問答無用でスペルヴィアの首に、深い青の首輪を嵌めた。今日のスペルヴィアの上着と同じ色で、アクセサリーとしても合うような……いや、その首輪から長い鎖が伸びていたらアクセサリーではなく、違う意味合いを連想しやすいが。 「……二人一緒に祝うと言う言葉を去年反故した以上、今年は一緒に居ましょう?」 「……あ、あぁ」 氷女の優しい声。しかし、その言葉は拒むことができない何か強い力が宿っており、返す言葉もないスペルヴィアは力なく項垂れた。 (「……あ」) よく見れば、氷女が何処と無くばつの悪そうな顔をしている。 (「アレは、『流石にやり過ぎた?』と思っている顔だな」) スペルヴィアは軽く息を吐いた。が、次の瞬間、 「はい、あーん♪」 氷女が楽しそうな声で、ケーキを一口分刺したフォークを差し出してくる。フォークを持つ反対の手はしっかり鎖を握って。 スペルヴィアは目を逸らしながら、頬を染めて恥ずかしそうに口を開いた。 ――ぱく。 目は逸らしたまま、もぐもぐと口を動かす。 (「……まぁ、こんなクリスマスもいいか」) スペルヴィアは、ふっと微笑を漏らした。 大切な人の傍に居られる静かな幸せ。それがスペルヴィアには嬉しい。 (「……まぁ、犬扱いは流石に今回限りと願いたいが、な」)
――誇り高き灰狼は、今宵、蒼鳥の犬となりましょう。
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