●『ふたりのクリスマス』
人がたくさん集まるヴォレンティーナ家のクリスマスパーティーは目が回る程忙しい。勿論、イアハムの従属であるユマも忙しい。実際目を回すものがいたかどうかはともかくとして、とびっきりに忙しいのは間違いなかった。その合間を縫うようして休憩が取れたのは、きっとユマには誰かの加護でもあったのかもしれない。厨房を抜け出して、彼の待つ場所に急ぐ。待ち合わせた場所に、彼はいた。ぱぁん、と火薬の弾ける音。 「ユマさんメリクリ!」 クラッカーと共に出迎えてくれた数馬の笑顔が、何よりも疲れを吹き飛ばしてくれた。 「メリークリスマス数馬さん」 ユマはにっこり笑って、それに答える。準備しておいた料理を温めなおし、飲み物とグラスを準備して。部屋にたたずむ大きなクリスマスツリーは鮮やかな飾りつけで周囲を楽しませる。木の下には、たくさんのプレゼントが置かれていた。 「それじゃ、改めて!」 数馬がコルクを引き抜く。栓はぽーんと飛んでいき、辺りに炭酸の香りが広がる。こうして、二人のクリスマスパーティーが幕を開けた。 「さっすが、ユマさんだよなぁ。料理すげぇウマそー!」 口からよだれがあふれ出さんばかりのおいしそうな料理が並び、数馬は歓声を上げた。どれから食べようかと悩むのを、ユマは微笑ましく眺めている。 「んぐ、んぐ……っくぁー。やっぱウメェな」 フォークを掴みまずは鳥のからあげに挑む。カラっと揚がっていて、暖めなおしてもなお十分美味い。咀嚼し、飲み込んでいく。とびっきりに幸せそうだった。 「あらあら、まぁまぁ。そう言われると、とても幸せでございますわ」 数馬の嬉しそうな顔を見られて、ユマも頑張った甲斐があるというものである。ふと、彼女は何かに気づいたようにフォークを取ってローストビーフを口に運ぶ。うん、味は大丈夫、よく出来ている。そしてもう一切れフォークで取ってから、彼の名を呼ぶ。 「数馬様。はい、あーん」 彼が振り向くと、フォークでローストビーフを持ったユマが、彼の口元にフォークを差し出したところだった。一馬は間髪いれずにかぶりつく。 「あーやべえ、オレ幸せ」 湧き上がる幸福感と共に、愛情こもった料理をかみ締めた。かみ締めるほど味わいがにじみ出てくる。これだけ言って、これだけ食べて貰えれば、ユマも本望である。楽しそうに微笑みながら、またフォークを料理皿へと。 「まだまだたくさんありますから、たくさん食べてくださいませ」 その後二人で食べて飲んで語らって。仲良くプレゼント交換をしながら、思いを確かめ合う。二人のクリスマス、それは幸せの形。
| |