●『天と地の星をみつめて』
「わぁいわぁい、クリスマスだー!」 「今年もこれで見納めってな。さて、それじゃあ最後に好きな景色を見るとするか!」 自分の好きな景色を一緒に見る為、リリーを連れ出す徹也。何処へ連れて行くのか教えてはくれなかったが、リリーには何となく想像はついていた。 ……去年連れて行ってくれたあの場所に違いない、と。
「うわーっ!」 そこから下を見下ろせば、夜空に輝く星にも劣らぬ無数の輝きが。夜の屋上は誰もおらず、ここから見える色とりどりの輝きはまるで二人の為だけにあるようだ。 (「やっぱ高い場所は良いよなー。去年と同じ場所じゃ飽きると思ったが、リリーも満足そうで良かったぜ」) 冬の夜空の下、二人で夜景を楽しんできたが、しばらくしてお気に入りのマフラーを揺らしながらリリーが近づいてきた。 「や、やっぱちょっと寒いかも」 「んじゃ、こうするか」 徹也は寒がる彼女をコートの中に引き寄せる。コートと徹也の温かさにリリーは満足そうだ。 「さて、と。それじゃクリスマスと今年の終わりを祝して――」 「――かんぱーい!」 カンっ! 二つの缶コーヒーが音を立て、夜空に響く。質素な音ではあるが、そこには今年に起きた二人の思い出が詰まっているのかもしれない。 そして指し示した訳でもないのに、二人同時に夜空を見上げた。 「……あ、流れ星!」 「……ホントだ。すげーなぁ」 夜空を通り過ぎる一条の光。 二人は一言交わした後、静かにその光を見送っていた。もしかしたら、その間に願い事を心の中で呟いていたのかもしれない。 光が夜空に解けた後、ゆっくりと徹也は口を開いた。 「……来年もよろしくな!」 笑顔でそう言う徹也に、リリーも笑顔で返答する。 「うん、来年もいっしょだよ!」 来年も一緒に――その言葉もまた、夜空へと溶けてゆく。 ……一瞬、眼下の輝きが増した気がした。ひよっとして、地の星達がその願いを聞き届けたのかも。 何となくそう思いながら、二人は再び夜景を楽しむ事にした……。
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