夜久・紀更 & 紫乃月・美桜

●『家路への誓い』

 日が落ちて暗くなった温室の中にある、薔薇のアーチの下。
「ほら、美桜」
 エスコートするように手を差し出した紀更の手を取ろうとする美桜。いつものように自然な動作だったのに今日は何だかどきどきして、手を伸ばしつつもためらって、恥ずかしくって思わず小さく笑みが浮かんでしまう。
 はにかむ美桜の手を掴んで自分の方に引き寄せると、紀更は美桜をぎゅっと抱き締めた。
 紀更の突然の行動に、驚きのあまり固まってしまった美桜の耳元で、そっと紀更が囁く。
「俺とさ。ずーっとこの先も、一緒にいてくれねぇ?」
 幼馴染として、そして今は恋人として、同じ時間を過ごしてきた二人。
 そして、これからも二人で同じ時間を過ごせるように、同じ家路を帰れるように。
「ただいまって言って、おかえりって言ってさ。そんな風に、ずっと」
 もっと、『結婚して下さい』とか、はっきりとしたプロポーズが言えたら良かったのだけれど、口に出そうとしたらなんだか恥ずかしくて、やっと言えたのはそんな言葉。
「……ずっと、私といてくれるの……?」
 思いがいっぱいに詰まった紀更の言葉に、返事をしようとした美桜の目からは思わず涙が零れ落ちて頬を伝う。
 それは、ずっと願い続けた美桜の一番の夢でもあった。
 どんな事があっても、最後は互いが互いの場所に戻れるように。
 私が彼の帰る場所であるようにと。

 涙を浮かべながら、本当に嬉しそうに花のように微笑んだ美桜が、紀更の背中にそっと腕を回す。
「うん、ずっと……傍にいて下さい……」
 美桜の温かな腕のぬくもりと、回された腕にそっと込められた力、そして囁き返すような彼女の言葉に、紀更もやっと安堵したように顔を綻ばせた。
「さんきゅ。……ぜってー幸せにする」
 そうして、紀更は今一度優しく力を込めて、美桜をぎゅっと抱き締める。
 たくさんの薔薇の花たちが優しく見守るアーチの下で、抱き締め合う二人。
 未来への約束。そして、プロポーズの瞬間。



イラストレーター名:秋月えいる