●『寒いですね…』
……先週、激しき戦いが起きた。それは多大な消耗と大きな選択肢を求められる物であり、戦いが終わった今でもなかなか落ち着く事はできないだろう。 だからこそ、今このひとときを大事にしたい。恭介と真由美は街でクリスマスプレゼントを購入した後、人の喧騒から離れた帰宅路を静かに二人で歩いていた。
「学園で行う最後の試験は、どうでした?」 「はい、好成績で終える事ができましたね」 「そうですか、それは良かった」 ゆっくりと歩む二人の会話は、男女の間でするものにしてはたわいも無い内容であった。それでも互いに微笑みあっている二人の姿からして、質問して返答するという簡易なコミニュケーションでも十分満たされるものなのだろう。 「そういえば、あの戦争から一週間が過ぎようとしてますね……」 「伯爵戦争と善悪の彼岸……どれも今まで以上に大変な戦いでしたよね」 戦争の時の記憶を思い出し、二人の間によぎったのは――不安。 今後どうなるのだろうか? この先もずっと二人でいる事ができるのだろうか? しばらく無言で歩いていたが、やがて静かに恭介が口を開いた。 「それでも……たとえ何があったとしても、俺は真由美さんと一緒にいたいです」 特に飾る事も無く本心から出た言葉。いかにも彼らしいその一言に、真由美も微笑みながら言葉を返す。 「……はい。私もずっと、あなたと一緒にこうして歩いていたいですね」 同じく、何一つ飾る事なき本心の言葉。 静かに交わされた言葉のやり取りであったが、お互いの気持ちは十分伝わったのだろう。言葉を交わし終えた後、その意味を抱きしめ合う様にしばらく静かに微笑みあう二人。 そして、また元の世間話に戻って行く。二人で過ごす今日この時を静かに楽しみながら。
――できる事なら、この先もずっと二人でこうして歩き続けられますように。 クリスマスの空に静かに響く二人の願いに冬の祝福を。何時までも彼等が一緒にいられる事を心から願う。
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