●『ケーキとツリーとぬくぬくな銀朱と流火のクリスマス』
「はやくはやくっ♪」 「あぁ、そっちはまだなんだ。こっちの後でね」 クリスマスが大好きな流火は、大きなツリーにおおはしゃぎ。 張り切って飾り付けを手伝おうとしているが、実際に飾り付けを行っているのは銀朱だ。 むしろ、どちらかといえば流火のやる気は作業の邪魔にしかなっていない。 ――とはいえ、銀朱にとって流火と一緒にクリスマスを行うこと自体が楽しいので、それくらいのことは問題でないのだが。 「さ、これで最後だね」 「にゃっ、流火がやるっ!」 流火は一声上げ、黒い仔猫の姿に変わる。 そのままとてとて駆け出し、銀朱の体を上り、彼が手にしていた金色に輝く星飾りをくわえてツリーの天辺へと飛び移る。 「にゃうっ♪ ……!?」 前足を使って器用に星飾りを取り付け、得意げに一鳴きした流火だったが、次の瞬間自分の居場所が思ったよりも高いことに気付いてパニックを起こしてしまう。 「みぅっみぅっみぅーっ」 「ぁー、やっぱりこうなったか」 銀朱は、瞳をうるませて悲しげに鳴く流火に苦笑しつつ手を差し伸べる。 「ほら、るーにゃ、落ち着いて」 銀朱の両手が流火の体をやさしく包み込み、そっと床に下ろす。 「大丈夫?」 銀朱の手のぬくもりが恐怖を和らげたのだろう。 地面に帰還した黒猫は、もう大丈夫だと尻尾で合図する。 「よし。――それじゃあメインのご登場だ」 「わーい、ケーキケーキっ♪」 流火が落ち着いたのを見た銀朱が持ってきたのは、豪華なチョコレートケーキだ。 「銀朱とはんぶんこするんっ」 「ふたりで食べきるにはちょっと大きすぎないかなあ」 「へいきね♪」 銀朱の言葉も、ステキなクリスマスケーキに興奮した仔猫の耳には届かない。 (「といっても」) どうみても無理のある量である。 そもそも、ケーキの他にもたくさんのご馳走を用意したのだ。それらもみんな楽しんでもらいたい。 「ん〜、でも、楽しみは長く続いた方がいいでしょ? 今日一日で食べ切らないで、何日かに分けて食べきろうね」 「!!」 銀朱のその提案に、目から鱗といった様子で流火がこくこくと頷く。 こんなに楽しいことが続くなんて、それはなんてステキなんだろう。 「そうだよー。これからも二人で一緒に、いっぱい楽しいことを経験しようね」 そんな流火を見て、銀朱は嬉しそうに優しい笑みを浮かべるのだった。
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