●『はる☆ひなのクリスマスソング』
(「うふふふふふふふふふ……お帰りなさい遙さん、今年も私たちは親友です〜」) 隣でひたすらボーっとしている親友の遙を見つめ、ヒナノは嬉しそうに笑った。彼女の手にはマイク、ここはカラオケボックス。そして……今日はクリスマス。 すっかりクリスマス仕様に飾り付けられたカラオケボックスを、きっとカップルで利用するお客様――俗にいう『リア充』もいる事であろう。
「ああ……結局私のクリスマスってこういう感じになるのね」 楽しげなヒナノに対し、遙は目に涙を浮かべ、テーブルに突っ伏しながら歌詞の流れるディスプレイを見つめている。 「憧れたディナー、イルミネーション、横に立つ素敵な彼……、全ては泡と消えるのね」 ぽつり、ぽつりと何かを呟いている遙の隣で、ヒナノは愛らしい声で歌い続けていた。1曲、また1曲と違う曲が流れていく。それの繰り返し。 「ん……?」 ふと、ヒナノに見つめられたのに気付き、遙はぐるりと頭を動かした。 「何よ? 何か、文句あるの?」 「いいえ〜? うふふふふふふふふふふ」 今夜はヤサグレモードには入りませんよ、とニコニコ笑っているヒナノを、遙は涙目で睨んだ。 「何か、考えてるでしょ!?」 「いいえ〜? ただ、去年から進展なかった遙さんを元気づけようと想いまして……他意はないんですええ本当に。うふふふふふふ」 バン、とテーブルを叩き、遙はヒナノを指差した。もう、本当に涙目だ。可哀想なくらいに涙目だ……ヒナノは相変わらず嬉しそうであった。 「ああ、ヒナノ……そんな嬉しそうな表情、久しぶりに見るわよ! 今年最高レベルじゃない!?」 「そうかもしれませんね? うふふふふふふ」 お上品に口に手を当て、「うふふ」と笑い続けるヒナノに、段々ヤケクソになってきているのであろう、遙――カラオケボックス内は、何とも言えない、異様な空気が流れている。
「さー遙さん歌いましょうっ! 暗い気分なんていらないのですっ!!」 もはや「イエーイ♪」等といったとんでもなく明るい掛け声が似合いそうなヒナノに、マイクを向けられた。 「いいわよ、ちくせぅ! ちくせぅ!! 歌ってやる!!」 「そうです! さあ、歌って歌って歌いまくりましょう!」 そうだ。せっかくカラオケに来たのだ。歌わずに帰ってどうするんだ……そう、少々無理矢理に考えを改め、遙は曲を選んだ。 「……さあヒナノ!! せっかくだし、デュエットするわよデュエット!!」 「はい、遙さんっ!!」
――――こうして少女達のクリスマスは、今年も変わりなく終わるのであった。
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