●『舞踏会からの脱走』
聖夜の舞踏会。護と羽根は互いに慣れない正装でぎこちないダンスを披露していた。気を抜けば転びそうになり、傍目から見れば愛らしく、どこか滑稽に感じられるような姿だ。 「ドレス姿も綺麗だぞ、羽根」 と、優しい言葉をかけてダンスの輪の中に連れ出しては見たものの、本人もぎこちないため今ひとつ締まらない。考えなしに突っ込んでいった事を後悔する護だがもう遅い。 一方連れ出された羽根も、舞踏会に来たは良いが、洒落たダンスなど踊ったことはない。見よう見まねで、物語のお姫様のように……と頑張ってみるがにわかには上手に踊れようはずも無い。そんな様子なので、お互いにぎこちないのも当然といえた。 せめてピンヒールで護の足は踏みたくない、そう羽根が思った次の瞬間……その足が宙に浮いた。 「わ、わわわわっ」 護が羽根の細い体を引き寄せて抱え上げたのだ。慌ててその首にしがみつく羽根。その形は――世に言うお姫様抱っこである。 奇しくも二人の考えは一致していた。護もまた、慣れないダンスを続けることに限界を感じ、足を踏んで痛い思いをさせてしまうくらいなら、と思い切った行動に出たのである。そしてそのままくるくるとターンし、半ば強引にダンスの人垣から脱出する。はっきり言って思い切り目立ってしまっていたのだが、護はその場の勢いに任せて気にしないことにした。 強引な脱出劇の最中、羽根は護にお姫様抱っこされているということと、くるくると回る様が楽しくてくすくすと幸せの笑みをこぼしていた。 そんな羽根が、とても愛おしくて。気がつけば護は大胆な脱出に、更に大胆な行動を起こしていた。そっと触れる、唇。それは本当に、物語の一幕のようなロマンチックな瞬間だった。 勢い、というのは時として怖いものである。脱出直後に、あまりの羞恥に猛省する護。 「……目立った……と、思うよ?」 ナチュラルに突き刺さる追い討ち。あまりの気恥ずかしさに声も出ない。 「でも……ちょっと楽しかったです」 くすくすと笑う羽根。穴があったら入りたい気分だったが、この笑顔が見られたのなら、勢い任せの行動というのも悪くは無い。 その無邪気な笑顔に、そっと微笑を返す。最後は恥ずかしさよりも、嬉しさの方が勝ってしまう、恋する二人の聖夜であった……。
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