御影・鈴 & 蜘蛛美・由良

●『巫女と主のクリスマス』

 冬がゆえの冴え冴えとした空気が、頬や髪を撫でる。
 ひやりと冷たい風を浴びながら、鈴は黒い目を細めた。その視線を遠くに向ける。
(「先に起きた戦いで、私と由良様は最初に戦えなくなってしまった」)
 ぼんやりとそんなことを思う。
(「――でも」)
 鈴は膝の上に頭を載せて、膝枕状態になっている少女に視線を向けた。
 鈴の大切な存在。……主である少女、由良。
(「最終的に帰ってこれて今日この時に至っている……」)

 鈴は由良に膝枕をしながら、「私はもっと強くならねば」と想いを馳せた。
 守りたい、と思った。その想いは、今も変わらない。
 この身を盾にしても、由良を守る。
 ――そんな鈴の心を見透かしたように由良が口を開いた。
「鈴ちー、無茶な鍛錬したら怒るのですよ!」
 愛らしい声が鈴に注意する。
「今日はクリスマスですよー!」
 由良は鈴の膝の上で頭を軽く揺らした。赤いくりくりとした目で、鈴を見上げる。にらまれても、可愛らしいばかりだ。
 由良の言葉に瞬いて、鈴はふと苦笑してしまう。
(「私は落ち込むと鍛錬で晴らすと言う癖があるから……」)
 鍛錬していた様子を、見られていたのだろう。
 無茶苦茶に……下手をすれば自分を痛めつけるように。
 ――由良がそんな鈴を、危惧してくれていることは理解できるから。
「大丈夫ですよ。由良様、ありがとうございます」
 礼を言うと「わかればいいのですよー」と由良は目を細めた。
 そのまま、甘えるように目を閉じる。
 鈴にとって、由良との一時は安らぎの時。
 この一時を守るために――武器を取り戦いに向かえるのだから。
「由良様は私が守りぬきます」
 そうつぶやき、由良を癒す祝詞を唱える。
 祈りを込めて、想いを込めて。
 指先を重ね、互いの温もりをより強く感じる。
 戦いの合間のわずかな休息。
(「今、この時だけは由良様に戦いを忘れてほしいから……」)
 願いを込めて、祝詞を続ける。
 まるで子守唄を聞くように……仔猫がまどろみに身を任せるように、由良が細く息を吐いた。



イラストレーター名:笹本ユーリ