●『聖夜のダンスパーティ』
壮麗な作りのダンスホールがシャンデリアに照らされている。長い時代にわたって支えてきた柱と天井は、たくさんの期待と喜びを見守ってきたのだろう。 このダンスホールの下では、誰もが期待に胸を弾ませて、華やかな衣服に身を包んでいる。 (「うゅ……ダンスするの初めてだから凄く緊張する……」) 桜が緋邑に手を引かれて足を運んでいた。それは傍目から見てもたどたどしく、迷った一歩が半歩足りず、遅れた一歩が二歩足りず、慌てた体が明後日を向き、リードする緋邑が最後に合わせる。それを何度か繰り返していた。 「大丈夫か? 桜。早かったら言ってくれよな」 何度か繰り返して、緋邑がそっと囁いた。桜の顔が、ぼっと赤くなる。 「ん、早くないから、大丈夫……でも踊るのに必死だから早さとかあまり気に出来てない、けど……!」 返答に意識が取られると、桜は足を滑らせた。緋邑がすぐさま腰に手を回し、転倒は免れたものの、 「ありがとう……」 桜は恥ずかしさのあまり緋邑の目を見れなくなる。けれど、そんな桜を気遣って、緋邑がにこっと笑いかけた。 「桜、俺の目を見て。ゆっくり付いてきて」 真っ赤になった桜は、恐る恐るゆっくり顔をあげた。緋邑は気にすること無いよと目で合図し、次には桜から視線を外さず、そっと一歩を踏み出した。 その一歩に、桜は自然と体が付いていった。 「その調子」 緋邑に励まされて、体が動く桜。 「うん、桜上手に踊れてるよ」 「……上手に、踊れてる……」 不安げに見上げる桜を、緋邑はこれまた視線で太鼓判を押した。 二人のステップは徐々に滑らかになっていく。段々音楽に合わせて、複雑なものになっていくと、緋邑がすっと手を伸ばし、桜がくるくると回ったりする。そんな余裕も出てきた。 「……緋邑と踊れるの、すっごく嬉しい」 真っ赤になっていた桜の表情も柔らかくなってきて、自然と足取りも軽やかになる。 「俺だって、すごく嬉しいよ」 緋邑はそう答えながら、目の前で踊るドレス姿の桜に、惚れ惚れと見入っていた。 ダンスホールは自然とスポットライトが現れて、踊るカップルを照らし始める。段々踊りをやめて、周囲へ外れていくカップルも出てきた。二人はそれに気づくことも無く、スポットライトの下で踊り続けた。 「また、こうやって一緒に踊りたいな……♪」 桜は緋邑の手から離れて、ステップを踏んで距離を取る。そして緋邑へと手を差し出した。緋邑はそれに答えるように桜の手を取りにいき、掴んだ手を引き寄せると桜を胸の中で抱きしめるのだった。
そこで丁度、ダンスホールの音楽は止んだ。 ダンスホールの上には、いつの間にか桜と緋邑の二人だけが立っていて、スポットライトに照らし出されている。その二人を取り囲んでいた他のカップルたちからは、惜しみない拍手が送られるのであった。
| |