秋月・那波 & 伊東・尚人

●『人生のワルツ』

 今日は一年に一度の特別な日。
 学園主催の舞踏会で、那波は大好きな尚人とダンスに興じていた。
 この日の為に衣装を新調し、気合は十分。
 クリスマスツリーのイルミネーションが織り成すロマンチックな光景が、否応なしに気分を盛り上げる。
 周囲の喧騒も、今の那波の耳には全く届かない。世界には自分と尚人だけしかいないと錯覚するほどで、まさに幸せの絶頂だ。
 そしてそれは、彼女のパートナーである尚人も同じだった。
(「泣いてばかりいた那波がここまで自立し、自分の力で歩めるようになったか。今後の成長が楽しみだな」)
 那波と一緒に踊りながら今までの事を振り返っていた尚人は、良くぞここまで立派に成長したと感慨に浸っていた。
(「本当に、立派に――っ!?」)
 しかし、尚人の思考は唐突に走った痛みで中断される。
 調子に乗りやすい那波がうっかり、そして思い切り尚人の足を踏んでしまったのだ。
「ぎやー……!」
 しかもそれだけでは済まず、那波はバランスを崩して派手に転倒し、尚人は押し倒される形になってしまう。
「い、たたたた……」
「な、那波、大丈夫か?」
「……う、うぅーーー」
 尚人が心配して声をかけてくれるが、那波にそれに反応するだけの余裕は無い。
 せっかくのいい雰囲気を、自分の失敗で台無しにしてしまった。
 自分に対する後悔の念と悔しさ悲しさで、那波は今にも大泣きしそうになってしまう。
「あぁ、ほらほら、せっかくのかわいい顔が台無しだぞ。まだまだ時間はある。失敗は取り返せばいい」
 しかし、泣き出しかけた那波を尚人がそっと抱きしめ、優しく頭を撫でてあやす。
「ありがとう、尚人」
 尚人のその言葉で、那波の悔しさや悲しさがいっぺんに吹き飛んでしまう。
「さすが私の未来の夫。さあ、気を取り直していってみよう!」
 元気を取り戻し起き上がった那波は、改めて尚人と一緒に踊り始める。
 今度は失敗しないように。
 この最高のパートナーと過ごす幸せな瞬間を、もっともっと楽しめるように。



イラストレーター名:笹井サキ