ラピスティ・グラッセ & マロン・ビネガー

●『Salut d'amour』

 クリスマスといえば?
 少なくともお年頃な男子であるラピスティにとっては、クリスマス=デートである。
(「幼馴染み属性……万歳!」)
「うーん、吹きすさぶ冷風が心地よい季節だね!」
 心の中でガッツポーズするラピスティの横で、雪女であるマロンは真冬の冷気を満喫している。
「でも」
「え? な、なに?」
「僕は雪女だから寒さは平気だけど……ラピスの方が風邪引かないか気になるよ」
 普通に暖かい場所へ行くというマロンの予想を外し、屋外を進むラピスティ。
 どこも熱々なカップルで一杯なため、気後れして人混みの少ない場所を探しているのだが、さすがにマロンに分かるはずもない。
 そもそも「ちょっといい雰囲気」を目指しているラピスティと違い、マロンの方は『幼馴染で独り者同士』だから誘われたとしか考えていないのだ。
(「さーむーいー!」)
 雪降る小道は風除けもなく、あまりの寒さに人通りもないというありさま。
 普通の人間であるラピスティにとってこの寒さは本気で辛い。というか、もはや痛い。
(「でも、マロンが幸せそうなのでいいよ!」)
 それに、人気がないとはつまり、隣の可愛い少女の笑顔を独占できるという事でもあるのだ!
 ――いや、本気で寒いのに変わりはないのだが。
「ちょっと散歩したら、どこか暖かい所に行こうか……」
「そだね、人が少なくなったらお茶でもしますか」
 マロンの返事にラピスティは彼女の方を向き――今さらながら、少女の首元がむき出しなのに気付く。
「あれ? マフラーしてないんだ。女の子が冷えちゃ駄目だから、僕の貸してあげるよ」
 いそいそと自分のマフラーを、少女の首に巻いていくラピスティ。
 マロンの方は、そんな幼馴染の行動に怪訝そうな目を向ける。
「マフラー要らないんだけど……何考えてるのさ? ラピスに限って裏は無いと思うけど、怪しい……」
「怪しくない怪しくない! 雪女だからとかじゃなくて、見た目寒そうなのが心配で、あのその」
 じっと見つめられ、説明に困り取り乱すラピスティ。
 そうして焦りと混乱が頂点に達し、少年は思わぬ行動に出る!
「ええっと、そうだ」
「?」
「好きです、僕とお付き合いして下さい!」
(「わー言っちゃったー!」)
 直球である。ド直球である。
 しかも危険球。
 ……とはいえ、だからといってそれが通じるかどうかは、また別の話であり。
(「何か好きとか付き合ってとか言ってる? ――ああ、ついに寒さで頭がやられたんだね」)
「ほら、無理してマフラー取るから顔赤くなってるよ」
 幼馴染みの奇行を自分なりに判断したマロンは、少年に哀れみの視線を向ける。
 そうして努めて優しく、ラピスティの寒さで赤くなった(と彼女は思っている)鼻頭を指先で軽く突っついてやる。
「……え?」
(「か、空振り?」)
 半ば錯乱していたとはいえ、決死の行動をあっさりと一蹴されたラピスティ。
 彼の淡い思いが届く日は、まだまだ先になるようだ。



イラストレーター名:Candy Cat