●『雪の中でクリスマスデート』
空から真っ白な雪がふわりふわりと舞い落ちる。 窓の外に目を向ければ、降り積もった雪が世界を白銀に染め上げていた。どうりで寒いわけだ、と凪がぼんやりと外を眺めていると、凪、と呼ぶ声が彼の耳に届いた。 「凪、外に行くのです!」 彼を呼んだのは瑠梛だった。 雪を見た事が無かったのだろう。どこか興奮気味な彼女に微笑みつつ、慌てて外に出る準備をする。絶対忘れているであろう、瑠梛の手袋を持っていく事も忘れない。 待ちきれなくなったのか、瑠梛は凪の手を取った。 「とても綺麗なのですよ」 その青い瞳に抑えきれない好奇心を滲ませ、外へと駆け出していく。それを止める理由は、凪には無かった。
「凪、雪ですよ。雪……!」 瑠梛の目に映る、一面の銀世界。きらきらした景色を前に、凪の手を引いたまま思わず駆け出す。 「瑠梛、転ぶと危ないからはしゃぎ過ぎるなよ?」 凪の言葉に対する反応は無い。 「瑠梛?」 「私は今、雪を楽しむのに忙しいのです」 そっけなく返された瑠梛の言葉に、思わずため息を吐く。自分が気を付けていれば大丈夫だろう、とはしゃぐ瑠梛を見守る。 (「……ホントは、凪と一緒に楽しみたいので連れ出したのですけどね」) そんな想いを心に秘め、思わず空に向かって差し出した瑠梛の手に、ふわりと雪が舞い落ちた。真っ白な、ふわふわした冷たい雪。 その冷たい感覚に瑠梛は自分が手袋を持ってくるのを忘れた事に気付いた。それと同時に差し出された手袋。 「ほら、そのままじゃ寒いだろ」 「凪なら持ってきていると思っていました」 手袋を受け取った瑠奈はそれを両手にはめながら、凪、と彼の名を呼んだ。 「私のために雪だるま作ったらいいですよ」 「雪だるま? ……って、作れって命令かよ」 瑠梛の言葉に思わず苦笑し、しかし嫌がる素振りも見せず雪を転がし始める。最初から瑠梛の為に作る気でいた凪の頭に、断るという選択肢は無かった。 凪の手によって雪の塊は少しずつ大きくなっていき、やがて彼の背丈よりも大きな雪だるまが出来上がった。 「瑠梛、雪だるま完成したぞ」 「すごいです。本物の雪だるまを初めて見たのです」 にこりと瑠梛に笑いかけた凪に、彼女は素直に称賛の声を上げる。 雪だるまに手をついて立つ凪の隣まで来ると、瑠梛はそっとその手を取った。 「凪の手、温めてあげるのです……」 ひやりとした冷たい手を、温かな手が包む。 瑠梛の行動に驚いたのか、凪の目が僅かに見開かれる。しかし次の瞬間にはすぐに柔らかい笑みをその顔に浮かべた。 別に凪の為じゃない。私が暑くなったから冷たいものに触れたくなっただけ、と言いながら、凪の手に大切そうに触れる瑠梛。そんな彼女の行動が嬉しくて、愛しくて。 凪は瑠梛の額に、そっと自分の額を合わせた。 「……ありがとな」 触れ合う手も、額も、そして二人の心も温かいもので満ち溢れる。 ――それはきっと雪さえ溶かしてしまう程の温かさ。
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