●『ターゲット確認、殲滅する』『いや、プレゼント配れよ』
愛の為の聖祭と聖人――クリスマスとサンタクロースは、切っても切れない関係にある冬の風物詩だ。もみの木と靴下という二つの象徴は、あちこちの窓の奥で子供達が夢見る憧れを一身に受け、静かに鎮座している。 「そして現れるは本物のサンタ、だな。サンタとなっていいのは、夢見がちな大人と――」 「夢を忘れず大人になった子供だけ、か。ところでお前、それで夢一杯の格好のつもりなのか?」 とあるマンションの屋上に集合した志乃神と御剣の二人は、それぞれに厳選したサンタクロースの衣装に身を包み、今はどこかの子供部屋の様子を窺っている。最近の子供は夜が遅いのか、寝入った様子のある部屋は未だ見つからない。 「その言葉はそっくりお前に返す。……なんでお前黒いスーツなんか着てるんだ?」 「いいだろう黒いサンタ、世界のどこにも居ないから夢一杯で。流石に黒いサンタ服はなかったから、代用品なんだが」 御剣の言うとおり、志乃神は漆黒のスーツに身を固めたサンタクロースの姿をしていた。同色のトレンチコートからは、何故か毎秒百発近い速度で何かを発射しそうなシルエットの鉄塊が突き出しており、今がクリスマスでさえなければ、これをサンタクロースと見破れる者はいないだろう。 「それより問題はお前だ阿呆。……お前こそなんで、返り血塗れなんだよ」 「ああ、俺のは夢一杯に真っ赤な、ただのインクだぜ? ただの、な」 「それは絶対嘘だ!」 志乃神の言うとおり、御剣は真紅の染みのついた白のコートを羽織ったサンタクロースの姿をしていた。袖口や襟元を中心とした生々しいペインティングは、まるで振り下ろす刀剣で人を斬った証拠のように見えて、今がクリスマスでさえなければ、やはりこれをサンタクロースと見破れる者はいないだろう。 それぞれの考えた夢一杯の装いは、しかしお互いにとってはまるでセンスの違うものであって、御剣と志乃神は同時にそっぽを向いて、同じ文句を相手に告げた。 「ヤレヤレ、常識考えろよな。お前は」 もし第三者がこの場に居たのなら、彼もまた同じ言葉を言うのだろう。ものすごい勢いで。
それから数時間、チャンスを待ち続けていた彼らに、ついにその時が訪れた。御剣の覗く双眼鏡の中で、一人の子供が安らかな寝息を立て始めたのだ。 「おっと、ターゲットを確認した。今から作戦行動に入る」 「おー、ご苦労。黒サンタみちゅるぎ」 今回の『サーチ・アンド・プレゼント』ミッションは、街の東西で二手に別れ、それぞれの視界内を無差別に担当する手筈である。行動を開始した御剣に、志乃神は監視を続けながらエールを送る。 「ソッチも健闘を祈る、赤サンタ……! では、殲滅開始!」 「殲滅すんな、プレゼント配れ!」 そして自称聖人達は、プレゼントを抱え聖夜を駆けていく。彼らの姿は誰にも見られることはなく、――それが誰にとっても今宵最大の幸運であったことは、言うまでもない。
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