谷繁・碧 & 文殊院・一穂

●『二人のメリーデイ』

 クリスマスイブが終わろうとしている。
 大切な誰かと過ごす一日。思い思いの一日であり、それぞれの大切な時間を生みだしていく。
 けれど、特別な日も終わる。特別な日から日常へと。
 でも、その変わるまでの数時間。
 その時間もまた特別な日なのだ。

「あー、とても疲れた……」
 ベットに倒れ込みながら碧は気の抜けた声を漏らす。とても楽しい時間を過ごしていたけれど、やはり気を張り詰めていたせいか精神的な疲れが来てしまった。
 そんな碧の様子に一穂は苦笑を漏らす。彼もまた疲れはあったものの、普段の差からだろうか碧よりも疲れは少ないようだった。
「うー……あたしはもう寝る……」
 駄々っ子のような甘えた声で碧は言う。こんな姿を見るのは自分だけだろうなと一穂は思いながら、碧の横に倒れ込む。
「ねえ碧さん……寝る前に、これ」
 懐から取り出しなチョーカーを碧の首にかける。ハートを模したそれが碧の首に下げられ、小さく揺れる。
「これ……」
「碧さんに似合うかなって思って」
 照れくさそうに一穂は笑みを浮かべる。大切な一日の最後を飾るアクセサリー。彼女に対する想いを込めて。
「もう、最後にこういうこと……一穂はずるい」
 恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに碧は笑顔を浮かべる。指先で触れるそれは一穂の想いが込められているのが伝わるように、なんだか暖かかった。
「それじゃあ、あたしからはこれをあげる」
 取り出したのは緑色のリボン。大切な彼を綺麗に彩ってくれるだろうと、ひと目で気に入った一品だった。
「毎日使ってよね。あたしも、チョーカーを毎日付けておくから」
 ずっと一緒だからと、満面の笑みを浮かべる。嬉しそうに、今が幸せだと顔を見れば伝わってくる。それに一穂もつられるように笑顔になる。
「ありがとね、一穂……」
「ボクこそありがとう、碧さん……」
 気付けば2人の距離は最初よりも近づいている。
 そこからは特別な言葉はいらない。ただあるがままに傍にいて、特別な日の最後を過ごしている。
 そして気付けば2人の瞼が落ち、あっという間に夢の中へ。疲れていた。けれどその疲れもまた幸せの一幕だった。
 特別な日は終わる。
 けれど、そこから続く日常もまた恋人たちにとってはかけがえのない時間。
 目が覚めたらまた、大切な時間を刻むことだろう。



イラストレーター名:芳乃弥生