●『〜Sweet time〜』
「ふふっ、朋也さんと一緒にクリスマスなんて嬉しいです」 カフェの席、朋也の隣へ腰を下ろしながら、蘭が嬉しそうに笑う。 蘭が困った時、支えてくれた朋也。そんな彼へ感謝の気持ちを込めて、クリスマスのカフェに誘ったのだった。 お礼になるか分からないけれど、と控えめに添える蘭に、朋也も微笑む。 「まさか蘭から誘われるとは思ってなかったよ。ありがとな♪」 余裕のある様子だったが、内心ではそれなりに気合を入れていた。 (「コレってもしかしてデートか……?」) 隣をちらりと見遣る。華やかな容姿の彼女が、丁度メニューを開いているところだった。 (「よ、よし! なら楽しまないとな!」) 心の中できつく拳を固める。デートならば、女の子を褒めてあげるのは基本。今日の蘭は、露出が多くてなんだか新鮮だ。しかし、女性にこのような感想を直接伝えるのは憚られる。 それならば。朋也は口を開く。 「普段和服な分、それも目新しくて良いな。露出があって非常に嬉しいGJ! よく似合ってると思うぞ」 朋也は本音と建前を使い分けられる男だった。逆な上に両方言っていたが気にすまい。 「まあ……」 素直な感想をもらった。蘭が、頬に手を添えてぼんやりと声を漏らす。 やや驚きはしたが、偽りのない言葉は嬉しかった。今日の身支度は、いつもの倍近く時間を掛けたものだったから。それに気付いてもらえたような気がした。 「ありがとう、朋也さん。……メニューです。ご覧になって」 甘いものが好きな朋也だから、色々な種類を注文しようと思う。開いたメニューを覗き込んだ朋也は、一つ頷いてから親指を立てた。 「色んな種類があって美味そうだな♪ 甘いものと蘭みたいにカワイイ女の子は大好物だ」 「まあ……」 再びの直接的な言葉に、蘭もまた微笑む。 こんな軽口を交わせるのも、二人の仲の良さの証だった。 ケーキが運ばれてからも、他愛ない会話で笑いあう。ふと自分の食べていたケーキを見下ろして、蘭は思いついた。 「朋也さん、こちらのケーキも美味しいですよ?」 「ん?」 ケーキをひとかけらフォークに刺して、朋也の口元まで運ぶ。にっこりと悪戯っぽく微笑んでみせた。 「あーんってして下さいね?」 突然のあーん宣言である。朋也は戸惑いを禁じ得ず、ぎょっと目を見開いた。 「お、おうっ……あ、あ〜ん……」 狼狽えつつも、大人しく口は小さく開ける。子供のようなことをしていると自分でも分かって、どうしても恥ずかしい。 口の中に何かが放り込まれる。多分ケーキなのだろう。もぐもぐと食べて飲み込んだ。 「お、美味いな」 実際は、味も分からなかった。何気ない風を精一杯装ったつもりだが、出来ているかは怪しい。 (「……クリスマスですから、これ位してもいいですよね?」) 今日は朋也にからかわれてばかりだったから、ささやかなお返し。 照れてしまって頬を染めている朋也を見て、蘭はくすりと笑った。
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