●『甘くて、苦いクリスマス〜思い出編〜』
「メリークリスマス!」 「メリークリスマス」 お決まりの掛け声とともに始まる、二人きりのパーティ。 こうして祝うのも何年目だろうか。ウルリッヒが、うさ……もとい、双子の弟ディートリヒと去年のクリスマスを思い出していると、ふと、それよりも昔の記憶が掘り起こされた。 「……あの頃は、酷かったね……」 「あの頃?」 それは、たしか5歳ぐらいの頃の思い出。 あぁ、あの頃かー。とどうやらディートリヒも同じ思い出を思い出しているようだ。
家でのクリスマスパーティー当日。 格式ばったパーティーが面倒くさくなり、クリスマスの装飾が施された空き部屋で二人で遊んでいた時のこと。 その頃のディートリヒは現在からは全く予想もつかない愛らしい性格で、服装はフリルが可愛いピンクのロリータ調のドレスを着ていた。髪も長くて、まるで女の子のよう。(否、本人は自分が女の子だと思っていた) しかしそんなことに違和感を覚える年齢ではまだなかった二人は、いつものように遊んでいた。 「ふふ。今日はね、ディートからウルにプレゼントがあるの」 「プレゼント?」 「うん!」 何だろう? と嬉しそうに微笑むウルリッヒに、ディートリヒも楽しげに微笑む。 「あのね。プレゼントはね。……ディート!」 「……え?」 はて、弟は何を言っているのだろうか。弟の突然の発表に、ウルリッヒは不思議そうに首をかしげた。 「ディートがお嫁さんになってあげる!」 「え?」 されどディートリヒはお構いなしで、それはそれは可愛らしい笑顔でウルリッヒへとキスを贈る。 唇に。 一瞬思考が停止していたウルリッヒは動かず、そのまま奪われてショックのあまり動けず。 (「コレは、ヤバイ……!!」) なんとか気を持ち直した兄は、その日から弟を一人前の男へと教育(調教?)することを決意した。 その甲斐あってか、ディートリヒはしっかりと男の子になり、ついでに少々ワイルドだったウルリッヒは丸くなり。 今の状態におさまりましたとさ、ちゃんちゃん。
――――なんて美談っぽく言っても、本人にしてみれば苦労の連続なわけで。
「そうだったなぁ……恥ずかしいぜ!」 照れくさそうに頬を赤くしているディートリヒに対して、ウルリッヒは引きつった笑顔を浮かべて、無言を貫いたのでした。
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